第25回『このミス』大賞 次回作に期待
『メモリーカード』夜桜紅葉
科学技術が発展したことにより、人間の記憶を受け渡しすることが可能になった。そのための装置「メモリーカード」の研究をしている片桐は、天才として知られる友人の藤本を訪れた。ところが、藤本の「メモリーカード」を自分の脳にダウンロードした片桐は急に意識を失う。気がつくと彼は自分の職場にいた。どうやら、記憶の一部を藤本に盗まれたらしい。
特殊な科学技術を設定として採り入れたミステリーで、意外性の極みを狙った点は悪くない。『僕を殺した女』『金のゆりかご』などの北川歩実の作風を彷彿させる。ただ、「彼女は僕の父親に殺された」という意味ありげな書き出しで始まり、三分の一くらいで再び同じ台詞が出てくるのに、その「父親」がどんな存在なのかが作中では重視されておらず、登場人物たちもあまり気にしていない様子なのは心理的に不自然に思える。キャラクター造型・展開・文章力、いずれもある程度評価可能な水準まで行っているので、そこから一歩突き抜けてほしい。まだまだ伸びしろのある書き手だと思う。
『花骸の『プレイバック』』藤咲くじら
未来視ができる少女が「運命の相手」とともに学校に伝わる呪いを解くという物語。校内に伝わる不思議な伝承、一定期間ごとの生徒の死を阻止しようと力を合わせる学生という設定は、いわば“爽やかな『Another』”という雰囲気。謎解きだけに注力するのではなく、普通の高校生としての恋や授業、学生生活の描写も良いし、人物もひとりひとり個性がよく描けている。また、無関係に見える学生生活の中に不自然にならないよう大事な情報が仕込まれていることにも好感が持てる。
終盤の意外な展開についても、下手をすれば単なる反則になってしまうところを、序盤からそれとなく仕込まれた細やかな描写で説得力を持たせている。ただ、若干、情報の後出し感がある。情報は都合よく誰かからもたらされるだけではなく、自分たちで推理し、気づけるものであってほしい。美流の未来視の真相は本書のキモなので、そこに「言われてみれば確かに!」と読者が膝を打つような仕込みがあるともっと驚けるしカタルシスも生まれる。もっと前の段階から、登場人物に対しても読者に対してもより多くの伏線があればさらに洗練されたものになると思う。
『烏兎長歌殺人事件~地名の謎と隠された大王~』山中フラン
歴史の謎を推理する同好会(通称「歴ミス」)に所属する大学生・二見明里は、米原市の四つの地名に着目し、継体天皇は雄略天皇の孫だという新説を思いつく。その十か月後、研究棟のエレベーターで准教授・潮沢之雄が刺され、所持品の手帳から奇妙な長歌が見つかった。明里は長歌が手掛かりになると考え、同好会の先輩たちとともに文献を探り、潮沢の学説を確かめるために滋賀県を訪れる。
歴代天皇の系譜を示す長歌をきっかけに、日本書紀や古事記では二人の大王が隠蔽されたという仮説を立て、首謀者の正体を推理する。その考察と殺人犯捜しを組み合わせた歴史ミステリーだ。高田崇史の諸作を思わせる体裁は悪くないが、言葉の符合の連打ばかりでは飽きてしまう。考察の方法にアイデアや工夫を加え、読み物としての魅力を増した新作に挑んで欲しい。
『パララックス』白石凍春
戦略コンサルタントが、クライアントである部品メーカーの物流網を調査するために訪れたタイで、この企業をめぐる謀略に巻き込まれる物語。コンサルタントの仕事の進め方のディテールはもちろん、タイ・ラオス・中国にまたがる企みの構図など、構築はしっかりしている。コンサルタントによる顧客へのプレゼンテーションという場面を、関係者を集めての謎解きに仕立ててみせる工夫も悪くない。不可解な状況から始まって、中盤にサスペンスがあり、終盤に入り組んだ真相を提示するまでの流れがきわめて丁寧に作られている。ただ、丁寧ではあるが淡々としていて、主人公が危機に遭遇する場面でもあまり緊張を感じさせない。きわめて誠実に作られているのだが、もっと読者を驚かせて揺さぶるための派手な演出があった方が、緩急の効いた作品に仕上がるのではないだろうか。文章や構成はしっかりしているので、これからに期待したい。
『アナザー・ミー』虎魚ハルヲ
出だしはヒッチコックの某スリラー映画を思わせるもので、応募作中もっとも期待しました。通りを挟んで向かいのマンションをずっと見ている男が主人公で、その部屋で殺人事件が起きるという出だしは最高です。ただ、そこからがつまらなかった。部屋で死んだ人物の正体を巡る謎解きになりますが、話の展開が一本線で推理する余地すらありません。読者に考えさせるための材料を与えてください。それを手がかりと言います。また、暗号やアナグラムの使用はほどほどに。それだけをトリックとして書いても読者にはほとんど満足感を与えることができません。たとえば、別の手がかりから密室トリックを解き明かされた後に、アナグラムで犯人の名前が示されていたことがわかる、というぐらいに副次的なものとして使うべきです。また話の流れにツイストがまったくないのは、主人公がまったく失敗しないし、危機にも陥らないからです。主人公をいじめることを恐れないように。
『相方は、相棒です。』山口回路
人気お笑い番組に漫才師の海野裕二を出演させろ、と要求する爆破予告がテレビ局に届いた。相方から解散を宣告されたばかりの裕二はやむなく、若手刑事の石川豪太とコンビを結成する。
今回、一次選考で読んだ原稿の中では一、二を争うほど読みやすかった作品。会話はこなれており、文章の練達ぶりはもはやプロ作家の域。ミステリーの新人賞でさえなければ、余裕で最終選考まで到達しそうだ――そう、ミステリーの新人賞でさえなければ。
漫才師と刑事が偽りのコンビを組むという設定は現実的にはあり得ないが、フィクションならではの奇想天外なアイデアとしては悪くない。問題は、こんな派手な犯行予告をするには、あまりにも犯人の動機が弱い点だ。作者も自覚があるらしく、登場人物に「たったそれだけの動機で」と言わせ、主人公に見解を述べさせるというエクスキューズをつけているけれども、それでもまだ弱い。犯人を示す手がかりのために脅迫状にわざわざフリガナが振ってある点も不自然の極み。次回応募する際は、ミステリーであることをもっと意識してください。
『500年は長すぎる』油村ミト
環境汚染で滅亡の危機にある地球を脱出して移住可能な惑星を探査するという重大な任務を負い旅だった宇宙船のクルーたち。だが、500年のコールドスリープから目覚めて到着した星には既に先住民がいた。彼らは先発隊の出航から30年後に開発された画期的な技術で、わずか一年の航海でこの星に到着した人類の子孫だった。この新天地で、出航直前に妻を惨殺された上、八歳の娘を残して強制的に乗船させられた主人公が、同僚のひとりが妻殺しの真犯人だと気づいて殺害した、と自首する。
主人公の自白の裏には何か事情があると確信する弁護士が、無罪判決を勝ち取るために奮闘する法廷ミステリです。母が殺されるのを目撃していた娘が、500年後に目覚める父に向けてメッセージを送った手段が、かなり無理筋ではあるものの斬新な上、絶対的に不利な状況下から逆転を狙う法廷ものとしても面白い。にもかかわらず一次通過作として押せなかったのは、主人公が自白の裏に隠し通そうとした危惧すべき事態が、被疑者死亡によりそもそも成立しないためです。文章とキャラクター造形がテーマに比して軽すぎる点、移住先の惑星の社会構造や文化の掘り下げが不十分な点もマイナス。斬新なアイディアと論理的なミステリを構築する力があるので、次回作に期待します。
『どんだらのふたり』佐々島秀行
令和も終わろうとするころのこと。島根県の陸上自衛隊出雲駐屯地で、男性自衛官が刺殺体となって発見された。事件の捜査は、警察と自衛隊が連携して行う。捜査に参加することとなった地元の刑事は自衛隊オタク、そしてそのパートナーとなった自衛隊警務官は警察マニア。性格も立場も異なる二人は、反発しながらも合同捜査を進めていく……。
刑事と自衛隊警務官がコンビで捜査しなければならない事件、という着眼点が、まずは優れている。そのうえで、二人の専門性の確かさも伝わってくるし、二人の関係が深まっていく様もよく書けていて、コンビの活躍を愉しく読ませてくれる。文章も、程よくこなれていて、妙に美文を気取ったりしていなくて読みやすい。残念だったのは、自衛官刺殺というシンプルだった事件が、サイバー攻撃や、航空機のイオンモール突入という大規模テロへと拡大してしまったが故に、魅力的な探偵役コンビとのバランスを欠いてしまった点だ。この二人が、もっと「この二人らしく」輝ける事件を与えることなどを考えると、作品全体のバランスがよくなるだろう。
逆に大規模テロに相応しい主人公を考えるという手もあるだろうが、本作の真相を鑑みるに、やはり、本作のような魅力的な主人公コンビに相応しい事件を与え、適切な展開を考える方が、著者の持ち味が発揮されるのではないかと考える。その際、警察官と自衛隊警務官とというコンビの設定はこのままでも構わないと考える。現在でも十分に(というと言い過ぎかもしれないが)“受賞作で主役を務められる”水準にはあると思うので。
『藪の中の真実 ―検非違使見習注進状-』彬平路紀
ある殺人事件をめぐって、関係者たちの互いに食い違う証言や告白を描いた芥川龍之介の短編「藪の中」。その真相を解き明かすという趣向の作品である。女性の身で検非違使を目指す主人公と、彼女に捕らえられた元盗賊、そしてその上司の三人による捜査を中心に据えて、独自の要素を丁寧に作りこんでいるところに好感を抱いた。彼女たちがたどり着く結論もまた、原典の矛盾する証言から整合性のある結論を導こうとしていて、一定の説得力がある。特に感心したのは、原典の多襄丸の証言にあった言葉を膨らませて、原典を超えた広がりを持つ物語を垣間見せてくれたところだ。単なる「藪の中」の謎解きにとどまらない作品である。
ただ、原典の「藪の中」はごく短い作品である。いっぽう本作は、原典の七つの証言を引き出すまでの捜査活動にかなりの紙数を割いていて、どうしても「引き延ばし」という印象をぬぐえない。オーソドックスな捜査ものの構成に手を加えるか、あるいは原典になかった「広がり」をさらに膨らませるなどの工夫がほしかった。主人公たち三人のキャラクターは悪くないだけに、より磨き上げられた姿を見たくなる作品である。
『火葬士の白幻』創ル洋
涼音空良は、仮釈放された後、火葬技術管理士として日々を送っていた。ところが、あるとき遺体の刺青を目にして、この男こそ妻を殺した真犯人だと確信し、真相を探るべく動きだす。
火葬技術管理士という特殊な職業である主人公の語りが真に迫っており冒頭からひきこまれた。だが、だんだんと話が嘘くさく感じられてしまった。たまたま仕事の担当となった死体が犯人らしき男だったものの、終盤で黒幕の男がそうなるよう仕組んだものと判り、じつはありえない偶然の産物ではなかった、という真相は上手いと思うものの、名前に陸海空がつく三人が高校のサッカー部で揃って友人同士となり、それぞれの過去や職業などを通じ、みながみな事件の黒幕となる男とつながっていたとなると、あまりに話を詰め込んだうえにご都合主義がすぎる。作者が考えた設定や真相に合うように話をこしらえすぎているのだ。頭のシーンがものすごくリアルでよかっただけに、もったいない。
『僕は僕じゃない』松山愛流
「スパイシーハウス」の料理人、夏目雅俊は、現在の生活に息苦しさを覚え、「人間関係リセット症候群」の衝動を抱えていた。冬月美容外科で夏目自身のプライバシー情報と引き換えに全身整形手術を受け、そして隣の町で別人として暮らしはじめた。それから七ヶ月後、なんと夏目雅俊のマイナンバーカードをもった遺体が相模川で発見され、親友とともにそのニセモノの正体を探ることにした。
主人公が激辛料理のあれこれを語っていく場面はとても面白かった。それが蘊蓄にとどまらずストーリーに活かされている点もすごく良い。しかし「人間関係リセット症候群」をめぐる展開がいまひとつに思う。主人公が「他人になって消え失せたい願望」を切実に持っていると納得させるだけの根拠や描写がもっと必要だし、全身整形を請け負ったのがじつは患者の情報を悪用しようと企む悪徳医者だったという展開にもうすこし説得力をもたせてほしかった。つまりありえない偶然が都合よく重なりすぎ。設定やプロットにあわせて人物を動かそうとすると、単なる駒になって全部がつくりものめいていく。激辛蘊蓄がやたら面白いのは書き手の血肉になっている知識や実感がもとにあり、そのまま主人公の言葉に宿っているからだろう。もし現実に自分がこれをやろうとするとどうなるか、その登場人物の性格や人格ならどういう言動が違和感なく自然に見えるか。偶然に頼りすぎず、誰もが納得する展開をとことんつきつめ、より紙上の現実感を確かなものにしてほしい。
『貴腐にまどろむ天秤たち』冬樹眞
銀行の支店長夫婦が殺害され、彼らの娘とその交際相手が逮捕される。この事件を担当する弁護士の塩野、検察官の渕、裁判官の最上は、司法修習生時代の同期だった。塩野と渕は、最上から勧められたワインを飲んだが、それは飲んだ人間の現在の記憶を過去へと送る不思議なワインだった。
同じ事件を司法修習生時代に同期だった弁護士・検察官・裁判官が担当し、しかも法廷以外の場所に三人が集まってそれを検討するなどというケースがあり得るのかはわからないが、ともかくオーソドックスで手堅い印象のリーガルミステリーとして始まったのに、いきなりワインの登場でSFミステリーになるのには面食らった。一応、プロローグにそれらしい伏線が張ってあるといえば張ってあるが、唐突さは否めない。主人公三人がそれぞれ事件解決と並行して自分の過去を修正し始める後半のこみ入った展開は面白いので、序盤からSF設定であることを強調しておいた方がよかったかもと思った。
『納豆が嫌いだとは言えないまま大人になり……』渡部智規
足利市の市職員である麻依は、水戸市の出身でありながら、極度の「納豆嫌い」。ところが水戸市との合同イベント「納豆フェスティバル」の担当を任されてしまった。幼馴染みで納豆観光大使をつとめる夏塔子と再会し、ふたりは視察のため市内にある老舗の水戸納豆製造所を訪れたところ、発酵室の前室で倒れている工場長の遺体を発見する。突発的な病死か食中毒死と判断されたが、現場の不自然さに疑問を感じた塔子は、麻依とともに独自の調査を開始した。
きわめてオーソドックスなフーダニット探偵小説で、楽しく読んだ。しかし、いちばん気になったのは、ある人物の告白場面で、会社のゴミ箱に捨ててあった他人の給与明細を目にして写真をとったという部分。給料明細というもっとも私的で重要なものをよりによって会社のゴミ箱へ捨てる人が実際にどれだけいるだろうか。しかもそれをたまたま悪意をもった人物が見つけた、と。あまりにも安易でご都合主義。この箇所だけでなく、全体に、話や真相にあわせてストーリーをつくっている不自然さが感じられた。なにより題名がいささか長くくどいのは、既応募作を改題したものなのか。いま指摘した欠点部分だけを直して題名を変え別の賞に再応募するよりも、新たな作品に取り組み、設定や真相にあわせてこしらえた偶然ばかりの「ご都合主義」を用いないよう(それを感じさせないよう)に書きあげることを勧めたい。楽しいドラマと探偵小説のスタイルを描く力は十分あるだけに、ストーリーの詰めやミステリとしての驚きをより磨いてほしい。
『死体刑事羽村詠歌の事件簿 日隠邸完全密室事件の真相』羽村詠歌
密室事件が多発するようになった世の中という設定です。この作品の美点は、その世界だからこそ通用するルールのようなものがあり、それに合致した論理を考えるというメタ構造がおもしろいところです。欠点は、そのメタ構造を支える、現実の密室事件にまったく工夫がないことです。これだけだと、密室を題材にした意味がありません。先行作家に鴨崎暖炉がいますが、ちゃんと読んでいますか。鴨崎は一作に密室殺人を複数盛り込み、すべて違うトリックを用いるという涙ぐましい努力をしています。似たような先行作品がある以上鴨崎暖炉と比較されますし、どう考えても先行作家のほうがアイデア量豊富なのだから、ジェネリック作品は不要ということになります。作品の設定自体はおもしろいと思うので、もしこれをまだ使うようなら、メタを支える現実の事件をきちんと考えてください。
『西海のピルグリム』村井なお
現地参加型ゲームイベントを通して描かれる人々の熱狂とゲームの裏側。ゲームを運営する側の物語は実に興味深く、主人公の立ち位置もいい。ゲーム内での謎を解くという行為を裏側から見せることで、正面から体験するよりもよりエキサイティングなドラマを堪能できた。次々起きる超常現象を、どうすれは回避できるのかという推理と、そのどんでん返しもよくできている。終盤のクライマックスはまさに手に汗握る出来。
ただ、人の思念や術式が超常現象を起こす、というのが当然の事象として大前提になっていることに戸惑った。こういう設定にするのなら、「そういうルールの世界」であることをまず読者に納得させなければならない。でなければ、雷も花が腐ったのも何か仕掛けがあったのではという「理にかなった本格ミステリの解決」を読者は探そうとするし、そうでないとわかれば「だったら何でもありじゃないか」となる。
この物語の場合は、まず主人公自身がオカルティックな事象をまず疑い、それを克服して「事実」だと理解する=読者に納得させる、という段階がまず必要なのではないか。読者を物語に引き込む構成・文章は優れているので、読者への説得力をつければぐっと面白くなると思う。
『美人を追うな、と相棒は言った』佐伯功一郎
四人の視点人物の物語が並行して綴られる形式。この手の構成は、一見無関係に見える話がどこかでつながるというのが定番なので、最初からそのつもりで読み始めたが、細かいところまでよく作り込んであって感心した。四つの筋が途中から絡んでいくのではなく、実は最初から絡んでいたというのを小出しにする見せ方が上手い(やや伊坂幸太郎的ではあるが)。散りばめられたヒントから読者があれこれ推測する楽しみがある一方で、それを心地よく裏切ってくれる手法も見事。
ただ、「どうつながるんだろう」以上の魅力がないのが難点。読者が感情移入できたり応援したくなったりするような、登場人物の魅力や何らかのテーマがほしい。島田の章とアオの章は最初から不穏で先が気になるが、山本の章がやや弱いし、千葉の章に至っては山本の章の補助でしかなく、もったいなく感じた。
最終的に明かされる真相もわかりにくい。最初の強盗から実は芝居だったというのはわかったが、最終的な時系列が一読ではピンとこなかったり、結局伊沢は何者だったのかすっきりしなかったり。せっかくいい構成力を持っているのだから、仕掛けは複雑でも真相はシンプルに伝わるような工夫がほしい。
『償わなければならない―The Fourth Day’s fall Daze―』小玉すいか
五人の推理作家たちのもとに、観光会社からの風変わりな依頼が舞い込んだ。港から七キロほど離れた孤島・瑠璃島の洋館“コーラルハウス”に四日間滞在し、取材をもとに小説を書いて欲しいというのだ。作家の一之瀬亮、藤井真一、佐久間秀一、沢村若菜、早乙女綾子、観光会社の社長・金成豪、施設の管理責任者・国枝正子、料理人の山添栄一が館に集い、プロジェクトは予定通りに始まるが、ほどなく国枝と早乙女の撲殺死体が発見される。衛星アンテナのケーブルは切断されていた。六人は外部との連絡手段を探り、犯人の正体について議論を交わしていく。
そんな粗筋からも解るように、クローズドサークルの犯人捜しを描く(概ね)直球の本格ミステリーである。型を踏まえた筋運び、オーソドックスな情報提示、必要な材料の配置といったツボを押さえることで、一定の面白さは担保されている。ロジカルに犯人を絞り込む告発パートはまさに王道的。惜しむらくは“本篇”にそれ以上の見所がなく、設定から容易に察せられるギミックが不発に終わっていることだ。階層のシフトだけでは蛇足の感が強く、結末の投げ方にも疑問が残る。とはいえ著者の年齢を考えれば十分に及第点。論理的な構成やメタ志向はセンスを感じさせるだけに、今後の奮起を大いに期待したい。
『星を喰む』折葉佐都
ジャンガリアンハムスターの「うずまる」は、ある日目を覚ますと人間並みの知能の持ち主になっていた。だがその目の前には、飼い主の死体が転がっていた。頭が陥没して大量の血を流していたが、ここはタワーマンションで、玄関のドアも窓も鍵は閉まっていた。転倒して後頭部をカウンターの角にぶつけた事故、というのがもっともあり得そうだったが、うずまるは他殺を疑っていた。それには、理由があった。
第一発見者は、被害者の弟。しかし警察は事故という推測で進めていた。果たして真相はいかに。
……という、「ネズミが天才になる」某名作SFのミステリ版のような話。
文章はよく書けていたが、いろいろと惜しい。まず、せっかくハムスターを賢くさせるのだったら、なんとかしてそのハムスターに探偵役(アームチェア・ディテクティヴならぬケージ・ディテクティヴ)を務めさせて欲しかった(結局、傍観者的な立場に終始する)。難しすぎる? そここそ、腕の見せどころ。
また、密室トリックがあまりにもあっけなさすぎる。これではミステリの賞では評価しにくい。
そもそもハムスターが天才になった理由も最後に明らかになるが、これまたちょっと残念。力業でいいから、もっと論理的にして欲しかった。
文章力はあるのだから、ミステリとしての部分をもっと深堀りし、もっと読者をあっと言わせる展開にすれば、より面白い小説が書けるはずである。
『快晴の殺人』黒永律希
作家の旧宅で起きた惨劇。クローズドサークルでの殺人に高校生コンビが挑むというもので、高校生ふたりの心情描写はとても読ませる。部屋の入れ替わりをはじめとする、細かい推理の組み立てもよく考えられているし、何より最初の“真相”が出たあとでの、三段構えの真相には脅かされた。この仕掛けを使ってどう読者を驚かすか、この謎解きを通して何を描きたいかという部分がとてもはっきりしていて、ミステリ部分だけであれば充分、及第点の出来だと思う。
その分、ミステリと主人公ふたりの思い“以外”の部分の描き込み不足がもったいなかった。出版社主催の「作家の旧宅で四日間過ごすツアー」って何のためのイベント? 抽選になるほど人気の作家なのに、ファンが集まっても推しトークがまったく出ないのはなぜ? 出版社が噛んでるなら前もって現地準備はしてるはずなのに、今にも落ちそうな橋や不穏な日記がそのまま残されていたのはどうして? 橋が落ちても警察はヘリや架橋車両で来られるのでは? そういった細かい部分に穴が目立ち、ミステリの仕掛けをするためだけにあつらえた舞台、というふうに読めてしまう。さらに、犯人の動機の伏線が弱いことも気になった。瞳の色が違う親友を庇う中に、自身のトラウマについてのなにがしかのヒントや、作家との関連をあらかじめ知っていてイベントに申し込んだといったような背景があるとさらに良かったのではないか。
『マイナス一パーセントの贖罪』種神孝
文章は非常に読みやすく、書ける人材だと思いました。海外の某国が舞台で、現在の時制で起きた殺人事件と、その地で旧日本軍が行った非人道的な行為の顛末が並行して語られていきます。この二つがいずれ結びつくことは自明ですが、まったく意外性のない展開でした。こうした柱になるテーマがある作品であっても、長篇なのですからミステリーとしての仕掛けを複数、最低でも3つは盛り込んでいただかないと今の時代では通用しません。
過去の時制は年代順で視点が入れ替わる構成になっていることもあり、ずっと付き合っていたいと思うような登場人物がほとんどいませんでした。現代の時制でもそうで、家族の汚名を晴らそうとしている主人公さえ影が薄い。キャラクターの立て方を再勉強してください。







