宝島社 『このミステリーがすごい!』 大賞

大賞賞金1,200万円 文庫グランプリ賞金200万円!

第25回『このミス』大賞 1次通過作品 嘘と魔法の庭

犯人当てが対局競技になった日本で
プロに弟子入りした少女が勝負を重ねる
新機軸の本格ミステリーバトル小説

『嘘と魔法の庭』織戸久貴

 競技としての犯人当てが定着し、当士と呼ばれるプロが活躍する世界。犯人当てタイトル戦“魔術師”七番勝負の最終局において、船戸衿は二分十五秒という驚異的なタイムで勝利を収めるが、出題者でもあった師匠・有屋環は衿を破門して自殺してしまう。公式戦で一勝も出来なくなった衿は、鴨川べりで出逢った中学生の少女に「犯人がわかりました」と告げられ、誰も解けなかった衿の犯人当て「シミュレーション館の殺人」の真相を看破される。
 少女は衿の従姉の娘・沢良木あやりと名乗り、衿のテストを突破して弟子入りし、ミステリカフェでエキシビションマッチに巻き込まれる。家族がおらず居場所もないというあやりに絆された衿は、関西フーダニット連盟の入会試験を紹介し、あやりは有屋の遺作「復元された左手のための伝記」を使った対局に挑む。相手は現役最強と称されるタイトルホルダーの花菱由真だった。
 異常な早解きと不正疑惑、場外の事情が絡む展開などは『君のクイズ』を思わせるが、手触りや方向性は大きく異なる。犯人当ての競技化だけではなく、架空小説の謎解きを用意した構成、ダイイングメッセージや後期クイーン的問題をめぐる論、叙述トリックの理解が鍵になるプロット、本格ミステリー用語のTipsなどを通じて、マニア小説としての徹底ぶりが濃い世界を成しているのだ。
 本作の犯人当ては“残虐な消費者による幻想”の装置であり、直球のパズラーを再現するものではないが、謎解きの本質にこだわる層に刺さることは確かだろう。本格ミステリーの根を煮詰めた意欲作として、迷うことなく二次選考に残す次第である。

(福井健太)

通過作品一覧に戻る

SPECIAL CONTENTS