宝島社 『このミステリーがすごい!』 大賞

大賞賞金1,200万円 文庫グランプリ賞金200万円!

第25回『このミス』大賞 1次通過作品 紺碧のレクイエム

水族館のサメが吐き出した人間の腕
いつどこで、サメはこの腕を捕食したのか
若き刑事がメディアの圧力に抵抗しながら真相を追う

『紺碧のレクイエム』高沢渉

 水族館のサメの水槽から人間の腕が見つかった。イタチザメが捕獲される前に海で捕食していたものを、水槽内で吐き出したと判明。腕は死後に噛み切られたらしく、もとの持ち主の死因の捜査が始まった。ところが遺体がテレビ制作会社のADだとわかってから、捜査はテレビ局の鉄のカーテンによって阻まれた……。
 完成度が高く、文章や構成力、情景・心理描写の技術はプロ並み。読んでいる間のストレスのなさと安定感は一頭地を抜いていた。腕が発見されるプロローグの臨場感から、若き刑事視点の語りに移行するときの上手さ、自分語りにも捜査説明にも偏らない場面配分のバランス、大勢出てくるのにちゃんと個性が書き分けられる登場人物など、小説技法はかなり高い。死体が事故か自殺か他殺か、他殺だとすればどうやって遺体を黒潮に流したのかという謎を、読者が混乱しないようちゃんと順番に追いかけていく構成にも好感を持った。やる気がないと思われていた上司が実はちゃんと裏で動いてくれていたというラストも、ベタではあるが感動的。
 ただ、注文がないわけではない。ひとつは、最初から犯人は限定されていて、殺害方法も順を追って解明されるため、真相に対する意外性が薄いこと。読みどころは主人公の成長と上司・部下の関係の対比にあるので謎解きはシンプルにしたのかもしれないが、これでミステリ的意外性を演出する一押しがあれば文句なし。もうひとつは、せっかくのテーマの「イマドキ」の演出が弱いこと。ソリの合わない上司との付き合いやテレビ局の性上納システムなど、現代の社会問題にも通じるような部分をもっと前面に出してもよかった。武器になるような個性を磨いて、「上手い」の先を目指してほしい。

(大矢博子)

通過作品一覧に戻る

SPECIAL CONTENTS