第25回『このミス』大賞 1次通過作品 ハックジャック-ファントム・コード
最先端情報科学の知識と謎解きの知的遊戯に大脳を刺激され
生死を賭けた脱出と活劇の展開に心臓を掴まれる
これは理想的なスリラーだ
『ハックジャック-ファントム・コード』平野耕一郎
申し分のないスリラーだと思いました。無駄がなくて、すぐに事件の渦中に入り込むことができます。中心で扱われるのは特急車両の制御システムが乗っ取られ、終点に向けて爆走を始めるという事件です。「新幹線大爆破」によく似た設定ですが、独自のアイデアがいくつ詰め込まれているので違う物語として楽しむことができます。たとえば、犯人が使用したマルウェアが意外な出自であることが判明するくだり。乗っ取りのために単独で開発されたものではなく、どうやら他でも使用されたものらしいということがわかると、一気に事件の規模が大きくなります。同時に、解決に向けて動く者との間に過去との因縁が生じ、一気に熱量が増すのです。顔の見えない犯人と闘う主人公が複数設定されていますが、得意分野が異なるのもいい。それぞれの専門分野、立場から行動を起こしてくれるので、事件が非常に立体的に描かれることになります。
キャラクターは独創的というほどではありませんが、きちんと表情が見えるように描かれています。元刑事で「剃刀」の異名をとった私立探偵、という主人公像は私にはトゥーマッチと感じられましたが、気取らずにどんどん動くキャラクターだからこれでいいでしょう。ただ、愛着があるのか、次回作でも使えるような動かし方をしている点には少し危惧を覚えました。新人賞応募作は一期一会、そこで使ったキャラクターは二度と出さないぐらいのつもりで燃え尽きさせないと、魅力は出ないと思います。甘やかさないように。
列車内に取り残された人々のサバイバル小説という性格がありますから、ずっと気の抜けない展開が続きます。スリラーの基本は、主人公を片時も安全圏に置かないこと。忠実にそれを守って、最初から最後までスリルが減じない作品に仕上げてくださいました。最初に書いたように無駄な記述が一切ないので、分量も多くない。抑制の効かせ方もお見事です。すでにプロのお仕事です。
(杉江松恋)







