第25回『このミス』大賞 1次通過作品 簒奪のモーション
画期的な新薬の副作用「幻動」を引き起こしたのは、はたして量子もつれなのか
トラウマに苦しむ物理学准教授が不可解な謎を脳量子理論で解明しようとする
サスペンスに満ちたメディカル・エンターテインメント
『簒奪のモーション』福井結詩
トラウマの苦しみから解放してくれる画期的な治療薬を巡る、不可解な謎とサスペンスに満ちたエンターテインメントです。
二年前の高速自動車道でのトンネル崩落事故で恋人の渡辺凜花を失い、重度のPTSDとパニック障害に苦しむ神南透。若くして大学の理学部の准教授となり天才と呼ばれた彼は、症状の悪化により研究はおろか最近では講義を続けることすら困難になっていた。学者生命の危機に瀕していた彼は、脳内ノイズと認知限界の拡張を研究している医学部脳神経科のポスドク・松本深月と出会い、未承認薬「アプティン」を提示される。それはトラウマ記憶へのリンクを遮断して脳から思考を妨げるノイズを排除することで感受性を極限まで高め、世界に対する解像度と論理的思考力を飛躍的にアップさせる魔法のような薬だった。薬の劇的な効果に自信を取り戻す神南。だが、不可解な現象が発生。自分の体が意思とは無関係に危険な異常動作を始めたのだ。一体何が起きているのか。「アプティン」の正体とは何か?
新薬の服用によって九十秒しか記憶が保持できなくなってしまった兄を元に戻したい深月。本当の目的を隠したまま、データ取得のために白羽の矢を立てた神南とともに「アプティン」の真の機序を探っていく彼女の正体がいつ明かされるのか、異常動作はなぜ起きるのかという興味が牽引力となって一気に読み終えてしまった。取り分け「幻動(ファントム・モーション)」と名付けられた異常動作の誘因を量子脳理論に基づき解明しようとするくだりが面白い。登場人物の関係がやや安易でご都合主義に感じつつ読み進めたが、最終的に提示される全体像が、犯人によって入念に構築されたものだと判明し不満は解消。爽快感のある幕引きも好印象で、一次通過作として十分な出来栄えだ。
(川出正樹)







