第25回『このミス』大賞 1次通過作品 彼女は蜃気楼だった
旅する男と少女の「目的地」は?
女性はなぜ変死せねばならなかったのか
すべてが明らかになり、すべてがつながる
『彼女は蜃気楼だった』夜暇
いくつかの話が錯綜する。まずひとつは、主人公・辻龍介の現在。彼は旅に出ようとしていた。それは彼が生きる意味をなくしてしまったことによる、「死ぬための旅」だった。やり残したことをやり、そして死ぬのだ。だが出発する直前、深青という少女が現われて彼の心を見抜き、自分も同じであると述べ、無理矢理に旅に同行する。
ふたつめは、龍介の過去。彼は会社員として、真面目に勤めていた。必死に、と言った方がいいかもしれない。上司からはひどい扱いを受け、責任感の感じられない部下からは仕事をかぶることになる。彼はすっかり擦り切れていた。
そして三つめ。都内で発見された若い女性の変死体。所轄刑事たちが捜査に乗り出すが、死体は一部損壊され、身元すらわからない。
龍介と深青の旅は続く。龍介の身に、何があったのか。深青の目的は、何なのか。旅の果てには、何が待っているのか……。
現在と過去が入り乱れるが、それが最後に一本の糸へとつながっていき、全体像が明らかになってくるところが実にうまい。これはそれなりの筆力がなければできないことだ。
龍介と深青の旅路も、ロードノベルの趣があって味わい深い。
ただ、会社のくだりは説明のために必要だとはいえ、もう少し短くしてもよいかもしれない。
キャラクターの行動原理にも微妙なところがなきにしもあらずだが、ストーリーを成立させるための部分なので、そこはよしとしよう。
全体として、ひとつの物語としてうまくまとめ上げている。一次選考のハードルは、悠々と超えているだろう。
(北原尚彦)







