第25回『このミス』大賞 第2次選考選評 大森望
通過率2.6%の狭き門を潜り抜けた作品たち
『このミス』大賞の応募総数は、過去15回、402編~473編で推移してきたが、今回はいきなり731編に急増。生成AIの進歩で小説を書きはじめるハードルが下がったせいかどうか、他の公募小説賞も軒並み応募が増えているらしい。応募が増えればレベルが上がるというわけでもなく、賞の主催者サイドとしては選考コストばかり嵩んで頭の痛いところかもしれない。その731編の中から、今回、2次選考に駒を進めたのは19編。1次選考通過率は約2.6%という狭き門になっている。その19編のうち、最終選考に残ったのは8編。それらについては最終選考の選評で触れることになるので、ここでは惜しくも選に漏れた11編について言及する。
なお、本賞の第1回以降、長く2次選考委員をつとめてきた千街晶之氏が、日程の都合というか他の仕事との兼ね合いで、今回から2次選考を抜けて1次選考にまわり、入れ替わりに1次選考委員だった宇田川拓也氏が2次選考に加わることになった。メンバーが交代して波乱の幕開けになるかと思いきや、いたって平穏無事な選考会でした。
では、例によって大森の評価が高かった順に簡単にコメントを。
芝野友基『好感度ゼロのプレシード』は、相手が自分に対して抱く好感度が数値で見える体質というファンタジー設定を前提にしながら、大学の研究室で起きた爆発事件をガチガチの理系ミステリーの手つきでリアルに解いていくという風変わりな作品。祖母からの好感度がゼロだった過去が主人公のトラウマになっているのだが、そうした事例についてはもっと早い段階で仮説が提唱されていてしかるべきでは。そもそも好感度の検証について作中にほとんど情報がなく、あと出し的に好感度の理由が説明されるので納得度が低い。理系ミステリー部分がたいへんよくできているだけにもったいない作品だった。もっと相性のいい特殊設定を考えるか、理系ミステリーだけに絞るかして再挑戦してほしい。
海とジャッカロープ『生徒会長の本懐』は、高校の部活〈解決代行部〉を舞台にした日常の謎系の学園本格ミステリー。青春ライトノベルとしては達者な書きっぷりで楽しく読めたが、ミステリー的にはもうひと工夫ほしいところ。石垣あすか『You wanna be my friend?』も同じく日常の謎系の学園ミステリー。こちらは全校生徒と友だちになりたい女の子と、だれとも友だちになりたくない男の子がタッグを組んで事件に挑む。米澤穂信《小市民》シリーズへのオマージュっぽいライトノベル系本格ミステリー。どちらもネタは悪くないものの、最終に残るにはオリジナリティとアピールが足りなかった。
森本博之『楽屋風景』は、落語会の舞台裏で起きるドタバタ騒動をディテール豊かに描く、三代目桂米朝オマージュの落語ミステリー。落語家やスタッフのキャラクターも楽屋の雰囲気もなかなかよく書けていているが、落語ファン以外の読者にはアピールしにくいかも。あと、このノリで殺人事件までエスカレートするのはさすがにやりすぎだろう。演目にも長短・軽重をつけるなどしたほうがよかったのでは。書きぶりが達者なだけに惜しい。
平野耕一郎『ハックジャック-ファントム・コード』は、ものすごくリーダビリティの高いB級スリラー版『新幹線大爆破』。とはいえ、たまたま乗客の中にいた年配の専門家に協力を仰ぐとか、乗客の大部分を下車させてから6人の乗客のドラマが始まるとか、2025年版『新幹線大爆破』とあまりに設定が似すぎていて、さすがに評価しにくい。
井原弘道『おかえりなさい、ミスターマリーキュリー』は、『羊たちの沈黙』系の警察捜査スリラー。プロットはじつに面白いのに、文章が全体的に粗すぎるというか板についていない。とくに会話は、とてもいまどきの小説とは思えないレベル。最近のエンターテインメントの台詞と文章をもっと研究して再チャレンジしてほしい。
同じく、小谷茂吉『不可能建築士の設計推理』も、建築がらみの物理トリックは面白く考えられているのに、小説(とくに会話)がそれを台なしにしている。
宮川耕『80億の配管図』は、今回もっともユニークと言えばユニークだった金融投資哲学小説。一種の経済寓話というか思想小説で、トンデモすれすれの面白さはあるものの、ミステリーと言い張るにはちょっと無理がある。いくらこの賞の間口が広いと言っても限度があるんじゃないかと思いました。
福井結詩『簒奪のモーション』は、最年少で准教授となった理論物理学者がトンネル崩落事故のトラウマに苦しみ、開発中の未承認薬「アプティン」に手を出したことから事件に巻き込まれる話。途中の量子もつれネタがトンデモすぎてちょっと引ていしまうレベルだが、最終的にはわりと地味な話に落ち着いてしまう。
夜暇『彼女は蜃気楼だった』は、「死ぬための旅」に出た男と謎の少女のロードノベルに、都内の公園で見つかった絞殺死体(両手の指切断)の事件がからむ。全体にふわふわした話で、どこがポイントなのか、なにを売りにしたいのかよくわからない。
入屋眞琴『アネモイア・シーカーズ デジタルイタコとデータ化された死への餞』はイタコの口寄せとデジタルな疑似人格の対比をモチーフに、一族の悲劇を描く。設定とプロットは悪くないが、文章とキャラはおおいに改善の余地がある。
……とまあ、いろいろ文句を書いたものの、応募作の上位2.6%に残った作品なので、自信をもって書き続けてください。







