宝島社 『このミステリーがすごい!』 大賞

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第25回『このミス』大賞 第2次選考選評 村上貴史

傑出した加点を備えた作品が最終選考に進む

 新たな顔ぶれで初めての二次選考会だったが、蓋を開けてみれば特定の作品に票が集まり、穏やかな選考会となった。そんな選考会を経て最終選考会に進んだ作品から紹介していこう。
 『四グラムの断罪』は少し先の未来の宇宙空間を主な舞台としたミステリ。ただしミステリの骨格としては馴染みのあるハードボイルド。アンバランスになりかねない組合せだが、トリックも未来型のテクノロジーを活かしているわりには絵としてわかりやすく、物語に違和感なく溶け込んでいた。そもそも主人公を中心に登場人物たちに存在感があり、ストーリー展開も淀みがなかったため、“いいとこ取り”に成功して最終選考に進出となった。二〇年前に死亡した女性宇宙飛行士と夫とのウェットなエピソードも歓迎。個人的には強く推したい一作だが、犯人の動機の弱さが最終選考でどう評価されるか。
 『嘘と魔法の庭』は、〈犯人当て〉のプロという職業が存在する世界を描いたミステリだ。この設定にまず興味を抱いた。そしてそのままプロ同士の対決の競技小説として結末まで愉しく夢中になって一気に読み進んだ。つまり、スタイルに特色があり、それを支えるだけの実も詰まっていたというわけだ。本格ミステリ視点でいえば、かなりマニアックなネタも放り込んでいるのだが、読者を置き去りにせずに程よい説明も行っているし、また、人間ドラマとしても魅力的に書けている。筆致もなめらか。ちなみに、プロが挑む〈犯人当て〉は複数盛り込まれているのだが、それだけを取り出しても満足できるように書かれていれば、なおよかったと思う。
 『紺碧のレクイエム』は冒頭に興味深い謎が提示されたので水族館での不可能犯罪小説かと思ったら、その後すぐ、刑事小説として進み始めた。ちょっと戸惑ったが、熱い刑事小説ですぐに引き込まれた。実のところ事件の構造に新しさはあまり感じられないのだが(ここは弱点)、物語は安定した筆致でしっかり読ませる。若手刑事が次々と協力的な人に出会ってしまい、これは小説としては減点したくなるのだが、“この人ならそうであっても仕方がないな”と思わせるキャラクターとして造られていて納得してしまう。海流や海洋生物に関する知識も、ほどよく織り込まれていて、「勉強しました」臭さがない点にも好感が持てる。
 『八億円の魚』は、第二次世界大戦後、米軍統治下にあった奄美群島が日本に復帰する頃の物語。軍票を日本円に交換するために政府が用意した八億円を、主人公たちが奪おうというのだ。この強奪計画の設計図も、小説としての展開の設計図も、どちらもよくできている。最終選考進出も納得という出来映えだった。強いていうならば、主人公とその他の人物の描き分けに強弱が不足しており、また、主人公をあまりに客観的に描いていて、(おそらくは設計図上では存在していたであろう)主人公の魅力が小説として表現しきれていなかった点が残念である。
 続く二作は、個人的評価としては上記の作品よりは辛口の採点だった。
 『密室少女とノーマッド』はサラブレッドの育成などといった北海道らしい活動をミステリと融合させた一作。複数の謎解きが織り込まれていて、日常の謎としてまずまず愉しめる。とはいえ、後半に用意されている十億円規模の取引が絡む事件の解明において、中学生が大活躍してしまう点には、一応のエクスキューズはあるものの、説得力不足を感じた。それでも二人の主人公の物語としての魅力は十分で、しかもそれが舞台や人物設定と親和していて、トータルでは良作であることには首肯する。
 『石飛翔子の飛翔』は、女流棋士を主人公とした一作。彼女が探偵との二刀流を目指す物語である。まずミステリとしては、素人新米探偵が扱う数々の小粒な事件の真相が物足りず、また、その後の大事件はそれまでと比べて大仰過ぎる。さらに、棋士として不適切な振る舞いをする場面もあって将棋部分の魂も伝わってこない。それらの弱点は一方で、破天荒な主人公が豪快に活躍する、テンポよく軽快に読める小説という特徴も生み出しているのだが、やはり弱みとしての側面を強く感じた。しかしながら、主人公を中心に本作を好む声もあり、最終候補とすることに異論は唱えなかった。
 ちなみに自分が一次選考で選んだ『ラスト_ガール』『古民家鑑定士・東雲飛鳥のフィールドノート』も最終選考に進んだ(一方は滑り込み)。各作品の評価は、一次選考の選評を参照されたい。
 自分が一次予選で選んだもう一作『80億の配管図』は、残念ながら最終選考に進めなかった。愉しめたという意見もあったのだが、ミステリらしいミステリではない点が、やはり横並びで最終候補の椅子を争うなかで弱みとなった。とはいえ、このまま埋もれるのは惜しい小説であることは強調しておきたい。国策もあり投資に対する関心が高まっている昨今、相場の動きについて深く思索した本作は、多くの読者に響くのではないかと思う。一次の選評にも書いたが、ミステリ的な刺激が、ミステリの典型とは異なるかたちでもたらされるので、本賞に馴染みにくいのはそうなのだが……。書きっぷりにも強い個性を感じるこの作者、注目し続けたい。
 残りは不通過となった作品だが、そのなかでも、個人的に評価が高かった作品群から紹介していく。
 『ハックジャック-ファントム・コード』は、暴走する列車内での乗客たちの奮闘というシンプルな構造のエンターテインメントで愉しめた。とはいえ、サスペンスを盛り上げる要素であるはずのサミットの描写が薄く、また、公安がヘリから列車内のある人物を狙撃する流れも余りに荒唐無稽。その他欠点も多いのだが、この暴走特急の如きストーリーの勢いは“買い”。次回は仕上げのフェーズに時間を費やすとよいのではなかろうか。なお、最後の最後、続篇への繋ぎを感じさせる結末には不満を覚えた。『簒奪のモーション』はトンネル崩落事故のPTSDとパニック障害に苦しむ男の物語。彼が未承認薬に手を出すところから展開していく物語はなめらかに展開していくが、未承認薬に関わる準主役級の女性の掘り下げが甘く、それが結末の物足りなさに繋がってしまっている。『おかえりなさい、ミスターマリーキュリー』の主人公もトラウマ系の警察官。物語は『羊たちの沈黙』タイプで、超人的な贋作者と主人公の警察官との対話が、現実の事件の捜査を進展させる。偉大すぎる先行作が脳裏をちらつきつつも、それでも読ませる腕力は感じさせた。終盤で警察官自身の血統の秘密が明かされるが、この設定である必然性を読者に伝えるには、もう少し丁寧な伏線が必要だったと感じさせるのが惜しい。『彼女は蜃気楼だった』では、公園で発生した殺人事件という重要な出来事の扱いが薄く、一方で主人公たちの逃避行描写に重きを置いていて、バランスの悪さを感じた。特に、殺人事件に関しては指の切断が終盤まで放置されている点も気になった。警察がYouTuberに頼るという動き方にも無理がある。とはいえ、物語の幹である逃避行そのものは実に魅力的。作品を構成する要素の整理と取捨選択で、トータルの完成度は一気に上がるのではないか。
 続いて、残念ながら低い採点となってしまったのがこちらの6作。
 『楽屋風景』は落語を題材とした一作で、脅迫された寄席を舞台としたワンデイサスペンスという魅力的な構図を備えている。全体の設計図にも大きな不満はない。その枠組みで動く人物の造形や、それを綴る文章に磨きがかかれば、より高い評価が得られたであろう。『You wanna be my friend?』は青春ミステリ。注目すべきはヒロインの特殊能力で、作者に都合よく働く面もあるのだが、一方で飛び道具としての破壊力と魅力を備えている。そんなヒロインが支える物語だが、ヒロインほど筋立てが強くない。教師が生徒に謎解きを持ちかけるといった展開や、学園の謎から拉致や連続不審火、さらには轢き逃げなどへのいささか唐突なエスカレーションなど、もう少し工夫の余地があったと思う。『生徒会長の本懐』も『You wanna be my friend?』と同じく軽い青春ミステリだ。登場人物たちの口調が軽いのはさておき(軽すぎる気もするがそこは好み)、事件や真相があっさりしすぎており、かつ短篇ミステリの切れ味を堪能できるかというとそうでもない。それ故に、“軽快で、かつ読後の充実感を味わえる小説”になりきれずに終わってしまった。軽み成分は口当たりよく愉しめるように書かれているので、各短篇の完成度(青春小説としての深みや味わい、謎解きの意外性、など)が勝負を決めることになる。
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 『アネモイア・シーカーズ デジタルイタコとデータ化された死への餞』は、視点人物を切り替えていくという細工を凝らした書きっぷりだが、結果として作品を冗長なものにしている。それぞれの視点人物の描き分けも不十分。さらに密室からの死体消失の真相も、かなり物足りない。しかしながら、デジタルイタコをはじめとするオカルト系モチーフは、特に前半で巧みに処理されていて、軽快に読めた。『好感度ゼロのプレシード』で著者は、他人が自分に向ける好意を数値として読む能力を持つ人がいる社会(日本人だけで数百万人規模)を構築し、そこにミステリを持ち込んだ。だが、その能力の説明(社会における扱いや歴史)が、それなりに説明はあるもののかなり綱渡り的。それ故に、本作の終盤で示された“意外な発見”がもたらす驚きも弱まってしまう。好感度数値の可視化というせっかくのアイディアだ。より多面的に吟味すると、オリジナリティが活きた作品に化けるだろう。『不可能建築士の設計推理』は、とある教団を名乗る殺人装置の施工集団という大構想を盛り込んだ割には、実行例が少なく肩透かし。館に仕込まれたトリックそのものの魅力はないわけではないが、既に頻出のパターンであり、それだけでは新鮮味を欠く。主人公にして探偵の助手役も、トラウマを抱えている割に、それが記号的な属性に止まっていて物語の牽引者にとしては弱い。とはいえ、殺人装置の施工集団という枠組みはまだまだ活かし方があるように思う。御自身のアイディアを整理し、読者になにを訴求すべきか設計されるとよかろう。
 以上19作。二次予選で全員からA評価の作品もあれば、僅差で当落が分かれた作品もある。最終的に残ったのは、やはり傑出した加点を備えた作品であった。特に新しさや全体として整合性のある完成度の高さなどだ。次回の応募を考えている方々は、こうした点を強く意識して戴ければと思う。

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