宝島社 『このミステリーがすごい!』 大賞

大賞賞金1,200万円 文庫グランプリ賞金200万円!

第24回『このミス』大賞 2次選考選評 大森望

SF設定やSF的ガジェットの使い方にはご注意を

 前回(第23回)のこの賞で大賞を獲得したのは土屋うさぎ『謎の香りはパン屋から』。文庫グランプリは、松下龍之介『一次元の挿し木』と香坂鮪『どうせそろそろ死ぬんだし』の2作だった。読者にとってはどうでもいい話だが、二次選考の段階では、この結果はとても予想できなかった。候補作をぜんぶ読んでいても、最終選考の議論でどれが浮上してくるかわからない。ということは、なるべく多くの選択肢を残しておくに越したことがない。だから――というわけでもないが、今回は過去最多タイの8作が最終選考に駒を進めることになった。
 その8作については最終選考の選評で詳しく触れることになるので、ここでは例によって、惜しくも最終候補から漏れた14作について簡単にコメントする。

 小説としていちばん面白く読んだのは『夏囚』。甲子園の名監督はなぜ自殺したのか。文章も語り口も危なげなく、高校野球ミステリーとしてかたちは整っている。惜しむらくは、高校野球マニアならずとも知っている人が多い、実在の有名選手や監督にまつわる実話に物語が大きく依存していること。しかも、その実話(をもとにした出来事)の〝真相〟を本作のようなかたちで提示するとなると、やはり違和感が拭えない。すくなくともメインの謎に関しては、オリジナルなネタを用意してほしいところ。
 逆にオリジナルすぎてスポーツ小説の枠を飛び越えてしまったのが『邪道の釣り師』。邪道の釣りメソッドで天才釣り師を打倒するみたいな展開を期待しながら読んでいたら、物語は斜め上の方向に進む。釣りを極めて釣りをしなくなるという発想は面白いが、肝心の〝邪道〟を実現する道具類がいまいち冴えなかった。知恵を絞れば、読者を楽しませる方法がいくらでもありそうだが……。

 時節柄か、今回の一次選考通過作には、AIやアンドロイドが登場する近未来SFが目立った(22本のうち4本)。
『その青をこえていけ』は茨城県警の資料室に配属された女性型アンドロイドが連続殺人事件の謎を追うSF警察ミステリー。いまどきの小説にしてはロボットの設定が古すぎるし、ネオテスタメント法(死者の脳を5分間だけ甦らせることができる)というSF設定もうまく生かしきれていない。同じアンドロイドでも、出し方に工夫が見られるのが『蜜蜂を飼う人』。田舎のスローライフの丹念な描写から一転、妻を殺してかわりに妻そっくりのアンドロイドを替え玉にしていたという驚愕の真実が明らかになるところは悪くない。しかしこちらも〝人間そっくりのアンドロイド〟という設定がおとぎ話すぎて、小説にとって都合がいいだけの道具になっている。こんな高機能なアンドロイドが普及している世の中なら、購入のさいに身元確認その他が必要になるだろうし、警察に真っ先に疑われるのでは。
『ポートアイランド連続〇〇事件』は、自然言語処理研究室の博士課程にいる大学院生が天才助教の世話係をまかされて――という生成AIものの連作ミステリー。研究室の雰囲気はよく書けているし、キャラも生成AIの設定も悪くない。一話完結式の〝日常の謎〟連作としては及第点か――と思っていたら、残念ながら、後半に行くにつれて話がグダグダになる。残念。『誰のものでもない』は、人間の作家とAI作家との小説対決という趣向。小説版「電王戦」みたいなこの企画は面白いが、どうにかして(プロンジーニ&マルツバーグの『決戦プローズ・ボウル 小説速書き選手権』のように)リアルタイム対戦に持っていないと話が盛り上がらない。両者がそれぞれに書く小説(作中作)も、もっと工夫が必要。面白くなるポテンシャルがある題材なのでもったいない。
 AIでもロボットでもないが、『記憶の彼岸』は、記憶データを外部に保存できる〝メモリー〟というSF的道具立てを導入したダークサスペンス。話の骨格は最近のホラーでよくある配信者もの。殺人事件に関わるメモリーを受けとった主人公はそれを動画に編集して配信し、チャンネル登録者を一気に増やすが、どんどん過激な方向に進み、やがて一線を越えることに……。こちらは〝メモリー〟の扱いが雑すぎる。
 SF設定やSF的ガジェットを使うこと自体は問題ないが(以上の5作とも一次選考を通過しているのがその証拠)、ミステリーを書くための便利な道具として導入してみましたというだけでは、最終選考には残りにくい。新しいテクノロジーを描く時は、社会的な影響や技術的背景まで含めて、自分の頭の中できっちり設定しておいてほしい(その設定をすべて作中に書く必要はありません)。
 ネタかぶりで言うと、今回は憂国の経済サスペンスが2作。『義賊の叫び』は天才投資家で凄腕ファンドマネージャーのスーパーヒーローが日本を未曾有の経済危機から救う話。アメリカの要求で日本が部分鎖国に踏み切った近未来という大胆な設定があまり生きていないし、国家の陰謀を暴くというスケールの割に背景が薄すぎる。対する『財務省爆破!』は、ハイパーインフレを目論む国家的陰謀に対する(財務省を標的にした)連続テロを軸に、敬語が使えないスーパーヒーロー(7年前に霞ヶ関を追放された元エリート官僚)が大活躍する。ともに小説的な肉付けにもリアリティにも乏しく、あまり評価できないが、財務省に怒っている人が多いことはよくわかりました。茶木則雄氏が存命ならどっちか最終に残したかも。
 残り5作については簡単に。『ノーサンライト』は、伊坂幸太郎/『ベイビーわるきゅーれ』風のライトな殺し屋アクション。誘拐屋と殺し屋と回収屋が鉢合わせした現場の顛末は? 殺し屋の女に惚れる回収屋のキャラクターは面白いが、話をうまくまとめきれていない。
『ベルガモットの放火魔』は、連続放火事件の犯人ではないかと疑われた後輩の濡れ衣を晴らそうとする話。リーダビリティは高いが、主人公の行動が不自然すぎる。
『家族の刻印』は、たまたま自分の戸籍を確認して、15年前に5歳の子供を非嫡出子として認知しているという驚愕の事実を知った後期高齢者が主人公。話はよくできているし、リアルかつハートウォーミングな現代ミステリーだが、さすがにちょっと地味すぎたか。
『探偵VS.サイコキネシスト 奇跡の密室は崩れない』は、占い師チームと探偵チームが遠隔殺人の謎に挑む特殊設定ミステリー。占い師が念動力者というのは面白いが、サイコキネシスがどの程度使えるのか、設定が後出しなので、ミステリー的にはもやもやする。
『Moanin’ -モーニン-』はちょっと前の大阪を舞台にした警察ミステリー。風俗情報サイト運営企業の内幕が細かくリアルに書かれていて、そこはお仕事小説的にけっこう面白く読めるが、警察捜査パートはありきたり。暴力団と中国マフィアの抗争とかも、もう少しひねってほしい。

通過作品一覧に戻る

SPECIAL CONTENTS