第21回『このミス』大賞 2次選考選評 村上貴史

これらの八作品には誰かが強く推薦するだけの魅力があった

 二次選考に上がってきた一九編。選考会での議論の内容から判断するに、最終選考に残す候補が約半数という割合だったように思う。その上位グループの争いを勝ち抜いたのが八作だった。なかには三人の選考委員が揃って推したものもあれば、二人は推すが一人は反対するなど、評価が割れたものもあった。いずれにせよ、これらの八作品は誰かが強く推薦するだけの魅力があったということである。そこが最終選考に残れなかった他の作品とは明確に異なる点だ。
 というわけで、まずは最終選考進出の八作から。『爆ぜる怪人』『イックンジュッキの森』『物語は紫煙の彼方に』は、すんなりと勝ち抜けた作品。このうち『爆ぜる怪人』と『イックンジュッキの森』は自分が一次で選んだ作品であり、その選評以上に本稿で詳しく述べることはしないが、他の選考委員からも高評価を得たことは嬉しく思う。なお、後者についてはヒロインの造形にもう少し配慮が必要との声もあったことを付記しておこう。そこが弱点となるのは確かだ。連作ミステリの『物語は紫煙の彼方に』は、新鮮味はないが安定して読ませる。全体を一つの大きな物語として読ませる工夫もしており、いささか伏線不足にも思うが、この観点でも愉しく読ませて戴いた。ただし、居酒屋の密室を扱った一篇は強引に過ぎる。連作のうちの一作品ではあるが、全体の評価を下げかねないのでご用心を。
『レモンの手』は、いかにも作り物という小説だが、そう割り切って読めば、様々な仕掛けを愉しめる。終盤で明かされる残酷な区別も、この小説ならではの味わいとして記憶に残る。『夜明けと吐き気』は語り口の妙で愉しませるし、密室トリックでも愉しませる。後者は小栗虫太郎の「完全犯罪」を思わせるような凝りに凝った仕掛けで、実現性よりもロマンを味わえて嬉しい(が、相当な弱点でもある)。遺体損壊に関する一ひねりも、この書き手に期待したくなる加点要素だ。『天の鏡』は、自分とは無関係な出来事でも、そこに首を突っ込んで謝るという男の“なぜ”を語る一作。ミステリ味が希薄だし、SMクラブ的なデコレーションも中途半端だが、小説としてはきっちりと読ませてくれた。幼い少女との約束を巡るエピソードも新鮮に処理していて好感が持てたし、他の選考委員のプッシュにもまずまず納得できた。『龍の卵』は台湾を題材とした国際謀略小説。個々のエピソードからは確かな筆力を感じるのだが、物語全体の躍動感はもう一つ。“国際謀略小説枠”として、最終選考に残すことに同意した。
 もう一つ、一次で推した『ゴールデンアップル』も最終選考に残ったが、こちらは議論の末のこと。前回、前々回の大賞の主人公像(弁護士や弁理士)と本作の主人公像が重複する点をどう評価するかという議論だ。流行りものに飛びついた二番煎じ三番煎じであり志が低いとみなすか、レッドオーシャンで果敢に闘おうとする意気込みとみなすか。私としては、作品の出来映え次第という想いがあり、その点で評価できたが故に果敢な姿勢と捉えることとした。
 ここから先は、最終に残れなかった作品である。惜敗組を先に紹介しよう。
 ダークなヒロインが印象的な『さよならを言うために飛べ』。彼女以外のキープレイヤー(死体愛好者やその義兄、あるいはホームレスや少年)の描き方のバランスがよろしくない。主役なのか準主役なのか脇役なのかといったメリハリの調整不足で、結果として物語に物足りなさ/過剰さを感じてしまう。『蝶に罪はあったのか』は、中盤から物語が走り出すだけに、序盤のもたつきが残念。結末で示される真相については、なにが起こるかを冒頭で示すという工夫との組み合わせには魅力を感じるが、真相そのものは切れ味を欠く。『おまえの犬』は、叙述の仕掛けを用いたサスペンス。その仕掛け自体は中盤で種明かしされるのだが、その後も結末まで緊張感を維持して走りきった点を評価したい。登場人物も最小限に絞っており、それらの人物を操り尽くして物語をドライブしている点にも好感が持てる。とはいえ、他の選考委員から強く指摘されたのが、カットバック描写による仕掛けに新鮮味がない点だ(前述の中盤で種明かしされる仕掛け)。ここは確かにそう。さらに、終盤での“別人格”の扱いもかなり安直で、読後の低評価に直結してしまう。以上三作の惜敗組は、ポテンシャルの高さが作品に現れている一方で、敗者となる理由も明確であった。敗因を自分なりに分析し対策することで、今後の最終選考進出の可能性を感じさせるが、できればそこに長所を“圧倒的な長所”にするような取り組みも欲しい。受賞に至るために、だ。
 以降の作品は、二次選考においては力不足と感じさせられたもの。
 タイムスプリットなるものが存在する世界を描いた特殊設定ミステリ『時間分裂のミトコンドリア』は、設定そのものが収拾が付かなくなるリスクの高いものであり、しかもその設定そのものを仕掛けに活かしているせいで、設定の説明に頁を費やしすぎている(そうならざるを得ない)。この設定に惚れ込めれば愉しめるのだろうが、そうはならなかった。なお、青春小説としては、まずまず普通に愉しく読めた。『漆黒の虹』は、IT企業ミステリであり、予想以上に重苦しいピリオドに驚かされた。この苦味は良いのだが、小説としては平板。ミステリとしての仕掛けも弱く、推薦時に長所として語りたくなる要素に欠ける。『#誘拐配信』は、ありきたりなパターンだが、複数視点の物語が巧く組み合わさっていく魅力はあるし、中心人物の一人に関して驚かされる点もある。憎むべき相手に仕掛ける罠の着想も新鮮だ。こうした長所を並べつつも、戸籍の扱いや、様々な特殊能力者がこの登場人物たちの界隈だけに集中する偶然など、本書の魅力を構成する要素について、あまりに説明不足(設定が行われていないのではないかと疑うほどに無頓着だ)であり、結果として長所を愉しめない状況を生み出している。土台が0点なので、掛け算の結果、どれだけ長所が優れていてもトータルの評価が0点になってしまったという残念な一作だ。
 邪馬台国の謎と沖縄戦をタイムスリップで結びつけた『亜米利加の邪馬台国』は、本書で何が謎なのかを読者に伝える序盤は快調に滑り出すのだが、作品が扱う情報量が増えるにつれてもたつきはじめ、最後は失速。序盤を読むと手際よく書く才能はありそうだし、現代パートの主人公の造形もまずまず、相棒となる女性キャラクターの強引さも悪くない。なので、詰め込むべき情報の取捨選択が必要であろう。『三島由紀夫対三億円犯人』は、三島由紀夫がノーベル文学賞を受賞した世界を舞台としている。クライマックスに向けて大風呂敷を広げていく展開にはワクワクしたが、実際にはたいした出来事は起きず、一方で、細々とした説明が続いていて残念な終わり方だった。三島由紀夫に三億円事件に量子力学とてんこ盛りの本作もまた、読者に何を見せるかを整理すべきだ。
『プロメテウス・ゲーム』は、仮想世界のデスゲームという言葉から想像できるエンターテインメントのちょっとしたバリエーションに終わってしまっている。個々のトリックも小粒だし、犯人の動機も響かない。ページをめくらせる手際はまずまずなので、中身を練り込むべきだろう。『妹はリモート探偵 ~謎解きはビデオ通話で~』も、読みやすいが新鮮味に欠け、なおかつ繰り返される謎解きの真相が意外性不足という一作だった。読みやすさはもちろん長所であり、それはすなわち書くべき対象を著者が理解していて、読者にどう伝えるかを考えていることの表れではあるのだが、新人賞の争いにおいては、やはり描くべき対象の輝きが不可欠である。この二作はそれを強く感じさせた作品だった。
 最後の一作『飛行機と結婚した女、重婚す』は、かなり酷評された一作。女性主人公の行動が無神経だし、作中での実在企業の扱いもまた無神経。物語の展開も強引に強引を重ねていて現実味がない。だが、ここまで身勝手だと、“そういうもの”として読めてしまうから不思議だ。飛行機の機材フェチの主人公が機材の情報を頼りに過去の墜落事件の謎を解いていく“理系ミステリ”のようにも見えてくるし、ラストのラブシーン(これを描く必然性はないがページ数はたっぷり費やされており、しかも、ここもまた飛行機ネタで彩られているし、その飛行機ネタを理解するための写真まで添えられている)の特異さも魅力に思えてくる。とはいえ、他の選考委員の酷評も頷けるものであり、その通りの選考結果となった。
 以上の一九作が議論の末に八作に絞り込まれたわけだが、さて、最終選考会はどのような結論を出すのだろうか。勝者が誰かももちろん気になるが、その選評もまた気になる。

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