第15回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄

小説家として成功する最良の道

 二次の選考会が年々、長くなっているような気がする。それだけ丁寧な、かつ白熱した議論を交わしている証左だろうが、今回、決定に要した時間は、二時間を優に超えた。「このミス」大賞二次選考会の、最長記録更新である。
 村上委員が書いているように、最大の要因は、予想以上の評価のばらつきにある。三人揃ったA評価作品はひとつとしてなく、Aが被った作品すら、三作しかなかった。あとは、単独AにBC評価の、乱れ打ちだ(余談だが今回、ACCという、極端に評価が割れた応募作が4作もあった)。
 こうなると自分が激推しする作品すべてを上に挙げることは土台、無理な注文だ――と、わかっているのだがしかし、それでも、いまだ未練たらたらで、なんとかできなかったのか、と自問せざるを得ない作品もあった。
 たとえば『愚者のスプーンは曲がる』だ。「このミス」大賞の選考に携わって15年になるが、これほど笑いのツボに嵌った作品もない。深夜、ひとりで何度爆笑したことか。これは、一緒にいると超能力が使えなくなる超能力を持っている(らしい)青年(本人に自覚はない)が、ある日突然、訳もわからずサイキック・ウォーに巻き込まれていくユーモア・サスペンスだ。超能力を得た代償にある能力が欠落する世界観や、超能力を相殺する能力を持つ主人公など、設定自体は珍しくないが、能力者ひとりひとりの奇矯、奇抜さと、語り手のひとりツッコミのセンスが抜群で、文字通り腹を抱えて笑ってしまった。ことに、身体のある部分でしか残留思念を読み取れない男の話は、いま思い出しても涙が出てくる(だって、まさか直腸だと思わないじゃないですか。あんな大きな日本人形、どうやって入れたんだろ、って主人公ならずとも心配になるし、そもそもどうやって自分の能力に目覚めたのか、主人公同様、大いに気になるところだ)。主人公の代償が後半、存分に活かされていない憾みは残るが、それでも、テンポよく最後まで読ませる筆力は、プロになる資格を具えている。編集部はぜひ、隠し玉として検討していただきたい。
 隠し玉候補と言えば、『物語の終わり』にも可能性を感じた。超常現象を扱うキャラの立ったエンタメ、という意味では『愚者――』と似ているが、完成度はいささか劣る印象だ。視点や会話の繋ぎ方など、上達の余地はまだまだ残されている。が、それでも、オカルト現象を科学だけではなく心理学的視点を交えて解明、解決に導く手腕は評価に値する。リバース・スピーチを用いたクライマックスの“除霊”シーンは、家族の絆を描いてちょっと感動もの。主人公コンビのキャラをさらに掘り下げ、より不可解な謎(超常現象)を構築して合理的解明を目指せば、隠し玉としてシリーズ化も狙えるかも。
 あと個人的に惜しまれるのは、『眠りの海の子供たち』だ。舞台となる沖縄の情景描写といい、社会性といい時事性といい端正な筆致といい、一次の通過レベルは充分にクリアしていると思う。しかしこの作品には、致命的な欠点が二つある。ひとつは、情報を得る過程が偶然とご都合主義に依拠していること。たまたま入ったラーメン屋で入手した情報が次の情報に繋がる、といった「情報のわらしべ長者」的展開は、ミステリーとして許容しがたいものがある。さらに、事件の真相がラスト、犯行者の告白(手紙)で明かされるのは、ミステリーとしてあってはならない手法だ。筆力は高い応募者なので、プロットの構築に心を砕いて次回、再挑戦を待ちたい。
 筆力の高さでは『魔術師』も負けていなかった。本格ミステリーとして新味を欠く、という指摘もさることながら、問題は、時代設定だろう。本編を昭和二、三十年代に設定した方が圧倒的によかった。回想のプロローグを入れ(語り手が館の主とも、現在老人となった青年主人公とも、とれるようミスリード)、現代のエピローグで、娘が生きていたことを明かす(老婆になった描写を入れる)。これなら、どんでん返しも大時代的語り口も、生きたのでは、と思うがどうだろう。
 戦国を舞台にした『信長の首』と明治期の『萬朝報怪異譚――幸徳秋水の狐落とし』はタイトルを見て大いに期待したものの、読みはじめた途端、腰が砕けた。あまりにも軽い。軽すぎる。前者の「がおう、がるるる……!」と吼えて発情する忍者とくノ一の描写は、さすがにいかがなものか。後者の軽~い会話と滑りまくるギャクについて行くには、相当の忍耐を要する。申し訳ないが、私には合わない小説だった。
 この二作を上回って軽かったのが、『リサーチャー石井の事件簿 ~仮面ちゃん殺人事件~』。タイトルから軽いのだろうな、と覚悟して読みはじめたが、想像をはるかに超える軽さで(悪い意味での)、私にはちっともその良さがわからなかった。なにより、警察関連描写が出鱈目すぎる。キャリアは警部補スタートですぐに警部、所轄の課長は警部で階級は同じ(したがって課長に顎で使われるなどありえない)、という事実くらいは押さえておいた方がいい。
 同様に警察関係がてんで駄目だったのが、『紋白蝶は高貴に散る』だ。警視庁刑事部部長は警視監。本作の設定はあり得ない。『クライム&パニッシュメント』も警察関連のディテールがいい加減。視点も怪しいうえに、物語が偶然とご都合主義に満ちている。私には残念ながら、長所を見出すことができなかった。
 ご都合主義もここまで極まれば――という擁護意見も出た『暗号遺言』だが、皮肉なオチは評価するものの、最終へ残すにはさすがに無理がありすぎる。ご都合主義をご都合主義と感じさせないための工夫が、プロット作りの要諦だろう。『汽水域』もいろいろと無理があり(冒頭の接触場面からして、おいおい、だ)、プロットの詰めの甘さを感じる。文章も軽く、全体に幼い印象を受けた。
 幼いといえば、今回最年少一次通過者の『十四体目の幽霊』。十代半ばにしては筆力はあると思う。ただミステリーとしてみると、幼いというか勉強不足。このジャンルで作家を目指すなら、良質のミステリーをもっと読み込むべきだろう。学園連作ミステリーの『青春は、『レル』なしでは語れない』は、思春期特有の自意識過剰な文体を是とするか非とするかで、評価が分かれる作品。私自身は、嵌ったところと滑ったところが、相半ばした印象だ。名前のキャラ立ちは評価するが、如何せん、ミステリーとしては小粒感が否めない。
 最後に、導入部――第二の瀬名秀明誕生か、と大昂奮した『レジスタント・セル』。が、よかったのはプロローグから十数ページ。推敲の時間が足りなかったのか、一言で言って、若書きの印象が拭えない。設定や謎の出し方は『パラサイト・イヴ』を思わせて面白いのに、緊迫感やリアリティを感じないのは、「美人すぎる記者」とか「同級生のミュージシャン」とか、チャラい人物配置のせいだろう。物語に説得力を持たせ、面白く話を展開させるためには、どう人物を配置すべきか――プロットの段階で徹底的に精査すべきである。

 今回は(今回も、と言うべきか)、他の新人賞の落選作を改稿した作品が少なくなかった。なかには、最終に残ったものもある。
 使い回しを全否定するものではないが、使い回すなら、せめて徹底的な改稿を、原形を留めないほどの改稿を、施してもらいたい。それが、小説家として成功する最良の道だ、と私は信じている。

 二次を通過した作品については例年どおり、最終選評で思う存分、触れるつもりだ。結果がどうなるか、いまから楽しみでならない。