第3回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント

最終選考委員の判断が愉しみ!

 1次選考委員も兼ねているが、その段階でかなりの手応えを感じていただけに、期待を持って次選考に臨んだ。そして、自分が1次で選んだ『白い荒野』『オセロゲーム』以外の6本を読んだところ、5本までもが期待通り高水準の作品であった。6分の5というのは、実のところ非常に高い確率なのである。通常、1次選考委員に振り分けられる作品の出来映えにはバラツキがあり、その結果として次に残されてくる作品のクオリティにもバラツキがあるのだ。しかしながら、今回は見事なまでに高いレベルで横一線に並んでいた(裏返していえば、昨年のように頭抜けた作品もなかったということでもあるのだが)。

 そんなレベルの高い横一線のなか、最終に残れなかった作品は3本であった。そのうちの1本、満賀ミチヲ『ハッピープレイス』だが、大して笑えなかったのは「ツボ」が異なるからと分析できるにしても、会話の応酬のあいだに地の文での長々とした説明文がはさみこまれたりするなど、テンポのよい読書を妨げる記述が散見された。しかも、小説自体がやたらと長い。これらはすべて作者が読者をエンターテインしようという基本姿勢の逆を行く表現である。半分の長さに刈り込めば、もっと読める作品に仕上がったのではないかと思う。

 続いて1次で私が推した関根浩平『白い荒野』についてだが、この作品のアイディアは他の選考委員にも高く評価された。しかしながらおじさんくさい恋愛劇が圧倒的に不評であり、また、文章も不評で、あえなく落選した。それらに目を瞑れば(両目でなくともよい。片目を時折瞑る程度でいい)、十二分に愉しめる作品であるだけに残念ではあるが、他の作品との比較の結果、このような結論となった。

 最後の落選作もまた、残念な1本である。伊藤水流『一六〇X』は、様々な小道具を駆使した時代アクション劇である。前半のキャラクターの行動が後半で伏線として活用されている箇所も少なくなく、そこここで愉しめる作品であった。しかも、それらのアクションの連続で読者の目をひきつけつつ、その背後に、一つの大きな陰謀を隠すあたりに、ミステリ作家としてのセンスを感じて高く評価した。しかしながら、伏線の使い方はともかく、アクションの見せ場のそれぞれを単独で眺めてみると新鮮さに欠けること(たしかにバック・トゥ・ザ・フューチャーやらインディー・ジョーンズやらの仕掛けである)、そして、時代小説の基本をあまりに逸脱した文章であることが批判され、落選となった。落選原因、特に、現代小説的な文章と時代小説的な文章の混交という点に関していえば、実に中途半端であったといえよう。あえて現代小説的な言葉遣いに統一するなどの実験的手法も可能であったと思うし、そうすればそれが作者の姿勢として、賛否いずれかの評価となったであろうが、今回の場合は、ただ単に言葉遣いが入り混じっているだけとしか見えず、それ故に減点の対象にしかならなかった。伏線の張り方やミスディレクションの使い方に感じられる冴えを活かすためにも、要素ごとのアイディアをもう一磨きして独自性をしっかり強調することと、それらを読者に提示するための文章にもっと気を配って頂きたいと思う。そうすれば、この作家、かなりのレベルの作品を完成させることができると思う。

 続いて、予選通過の5本について。

 1次で自分が推した作品という贔屓目を抜きにしても、最も好感を抱けたのがサワダゴロウ『オセロゲーム』である。コンパクトに無駄なく面白さを凝縮した作品であり、実にお洒落であるといえよう。応募の規定枚数という「他人が決めた枠」を意識し、そこにぎちぎちに情報やエピソードを詰め込んだ作品ばかりでなく、作品の本質主体で、それに相応しい枚数で仕上げてきた『オセロゲーム』のような作品も、最終選考において内容本意で正当に評価されることを期待している。

 水原秀策『スロウ・カーヴ』は、野球界のことがきちんと書けており、その上でミステリとしても手堅くまとまった1本。スラスラと愉しく読めた。減点要素は少ないが、犯人の設定にもう一工夫欲しかった。

 深野カイム『パウロの後継』は、『スロウ・カーヴ』以上に、無難に愉しめる作品である。リベリアという題材も興味深いものであるが、その素材を、強烈な読後感を残すかたちでは活かしきれなかったのが惜しまれる。

 町井登志夫『血液魚雷』は、血管のなかの冒険行に抜群の迫力があり、そこを評価した。それに比べてキャラクターが圧倒的に薄い点と、他の候補作より漢字の誤変換が多かった点は、反省要素となろう。

 古川敦史『果てなき渇きに眼を覚まし』は、最も筆力を感じさせた1本。キャラクターの情念が読者の心に強引に侵入してくるほどの筆力は、もはやプロ並みといってよいだろう。今回もその点を評価しての最終候補である。あとは、その筆力で何を描くか。それぞれの場面ごとの刹那的な負の感情の爆発ではなく、1本の小説として読者に伝えるものを何にするかが、この作者が今後飛躍するために大切なポイントとなってくると思われる。エネルギーは十分に伝わってくるのだ。そのエネルギーをどこに向けるかが勝負となろう。

 これら五つの最終候補作をどう評価するか。最終選考委員の判断が愉しみである。

通過作品一覧に戻る