第24回『このミス』大賞 2次選考選評 村上貴史

簡単な改稿に止めるのか、根幹から磨き直すのか、是非一考を

 今回の二次選考会で議論した22作品において、個人的には、甘めに評価すればAを付けられるという作品が半数近くあった。一方で、突出した作品も見当たらない。そうした僅差の作品が並んだなかで、他の二人の選考委員との議論を経て最終候補として選んだのは8作品。まずはそれらについてコメントを記すとしよう。
 山奥の屋敷が土砂崩れでクローズドサークルになるという、いかにもな本格ミステリの枠組みを用いたのが『名探偵・桜野美海子と天国と地獄』だ。まず、読者への挑戦が二回も行われることに必然性があるのが素晴らしい。また、大仕掛けなトリックについても、その着想が大胆すぎて好感が持てる(着想を現実に実施するとなると欠陥はあるのだが、作品の世界観には馴染んでいる)。そうした衝撃的な真相に比重を置きすぎたせいか、前半の連続殺人パートが駆け足だった点は残念。おなじく謎解きの妙味を備え、さらに作品世界としての魅力を備えているのが『人間は生きてる限りアイを知る』である。不老不死の人物が探偵役という着想を、多面的に検討して作り上げたであろう一作だ。四章構成のそれぞれに工夫がある。第一章の“定員制”のアイディアは秀逸だし、第二章の千年に及ぶ仕掛けも鮮やかだ。第四章が、不老不死の物語として決着させようと考えた結果か、やや観念的に過ぎるのが、全体をミステリとして評価するうえでは弱点だった。
 主人公の“お仕事”に着目した作品もある。『データで全てはわかりません!』は、データサイエンティストを主人公に据えて、「予測精度が可能な限り低くなる予測モデルを構築せよ」という課題を設けるという着想が素晴らしい。ホワイダニットとして秀逸だ。そしてそれを成立させる器として、鉄道関連の企業小説という枠組みを用いており、器と中身のマリアージュも見事だ。ただ、暴力の要素まで持ち込む必要はなかっただろう。そこが惜しい。
 警察小説は2作品。『ミラーリング』は、主人公の男性警官が、育児との両立を図りながら真相究明に奔走するという構造がユニークである。事件の真相は、骨格だけ見ればかなり強引ではあるのだが、そう感じさせない筆力があった。とはいえ、最終選考会での弱点には十分なりうる骨格であることは指摘しておきたい。なお、題名と内容が幾重にも呼応している点については、加点要素として記しておきたい。『馬と亀』も書きっぷりのよい警察小説だ。若手女性警察官の成長と、中堅の男性不良警察官の転落という対照的な二人のストーリーを並走させ、しかもこの二人の接点は可能な限り少なく抑えつつ、それでも全体をひとつの物語として愉しく読ませてくれた。書き手の力量を感じる。
 残る3作は、それぞれに個性的なミステリだ。
 歪だが魅力的なのが『アナヅラ様の穴場』である。「アナヅラ様」にさらわれたかもしれないという女性を探す私立探偵チームの物語と、「アナヅラ様」視点の物語で構成された一作だが、どちらの物語もそれぞれに個性的な魅力がある。特に「アナヅラ様」側がビジネス化していくという着想がユニークだ(現実に成立しにくいのは弱点でもあるが)。結末も、この作品らしくてよい。いささか多過ぎると思える性加害描写が最終選考でどう評価されるかが気になる。
 構成が上手いし、構成要素のそれぞれも魅力的なのが『ぼくたちの告解』だ。小学校での出来事を“犯罪者”視点から描いた第一部が上出来であり、それを巧みに活かす第三部の作り方も素晴らしい。強いて欠点を挙げるとすればダイイングメッセージだ。その根幹の着想はよいが、この作品のあの場面にはそぐわない(死にゆく者が、あのかたちを記さねばならない必然性が足りない)。
 前回は、北朝鮮からの密使が送り込まれた昭和30年の日本という舞台造りと真相の噛み合わせの悪さなどが原因で惜しくも最終選考に進めなかった方の新作が『龍犬城の絶対者』だ。今回は、1920年の紫禁城という舞台と作中の謎が見事に融合している。前回と同じく人物描写は優れており、しかも今回は複数の魅力的な謎解きも揃っているとくれば、最終選考進出という結果も必然だ。
 これらの8作品に次いで推したかったのは次の3作品。
 まずは『夏囚』。高校野球における監督の不自然な采配という謎の設定そのものは非常に魅力的であり、“犯人”の動機に至る心理も説得力があって好感が持てる。ただし、このアイディアを小説にするにあたり、“佐々木朗希プラス大谷翔平”と誰もが想起してしまうような人物設定は、マイナスにしか機能しないだろう。御自身のアイディアの活かし方を見直してはいかがだろうか。もう一方の『邪道の釣り師』は、釣りにまつわる謎解きを多数連ねた小説。釣り経験3回という身からすると、非常に愉しく読めた。特に、素人目にも飛び道具と思えるガジェットの使い方が魅力的だった。ただし、謎解きとしては小粒な謎の繰り返しとなっており単調。全体としてのストーリーも一応はあるが、そちらで勝ちきるほどの強さもなかった。ネタを吟味してメインとサブで使い分け、一つひとつのエピソードを強化するのも次回に向けた手だろう。
 3作品目は、自分が一次選考で選んだ『ノーサンライト』だ。この作品を含め、今回は自分が一次選考で選んだ3作は、いずれも二次選考会を突破できなかった。そこで、二次選考会という他の作品と争う場での敗因と、その改善案を書いておこう。なお、ポジティブな面は一次選考の選評に書いてある。
 まずは『ノーサンライト』から。この小説が上手く書けているのは確かなのだが、それは主に構成や文章に対する評価。しかしながら、これらの魅力(これらだけではないが)を備えた作家には伊坂幸太郎という圧倒的に上位互換の存在がおり、これらだけでは、二次選考で強いライバルが現れると最終選考に進めない。人物描写の強化や、ミステリとしての凄味を追求するなど、もう一段階のステップアップを期待したい。『家族の刻印』は、身に覚えがないのに見知らぬ子を認知しているという謎の設定を含め全体として好意的に読まれたが、他の候補作との比較においては、物語としての盛り上がりに欠けるとの評価だった。例えば、主人公やその孫などにピンチを与えるなど、よりスリリングにする工夫があれば、勝てたかもしれない。『財務省爆破!』はインパクトのあるタイトルだが内容が期待ほどではない(タイトルから期待するものとは違う事件が続く)点や、小説の書き方の問題など、一次選考時に懸念した点がすべて敗戦に繋がっていた。その一方で、加点要素は小説としての弱さのせいで支持を得られなかった。遠回りかもしれないが、自分の書きたい分野の小説を多く読み込むことが今後に向けて有効だろうと思う。
 残る9作は、二次選考を通過するには、さらにもう一歩という作品群になる。
 そのなかで、弱点として粗さが目に付いたのが2作品。『探偵VS.サイコキネシスト 奇跡の密室は崩れない』について、弱点の前に強みを紹介すると、まず館での連続殺人という「定型」に、探偵役ペアを二組投入する新規性がある。また、探偵役ペアの一方を紹介する導入部の鮮やかさも特筆に値する。だが、読み終えてみると役割の整理が不十分で、真相の意外性も不足。探偵役の一人が持つ念動力という飛び道具の使い方も中途半端。長所と短所がいずれも明確なので、短所(複数の短所)を致命傷にしない底上げをした上で、長所を磨いてほしい。また読んでみたい書き手だ。続いて『誰のものでもない』。人間とAIの小説対決という、おそらく本賞の応募者にとっても読者にとっても興味深い題材を扱っているが、闘いそのものの熱が伝わりにくいのが残念。さらにSNSやフェイク動画といった今日的題材も盛り込まれているが、AIとの小説対決を含め、素材の魅力頼りの感が否めない。先進のトピックとミステリを融合させる“人”の物語を強化することをのも一案だろう。
 ミステリとしての新鮮味や魅力という観点で勝負弱かった作品が3篇。
 まず『ベルガモットの放火魔』は、放火が連続する事件を描いているのだが、真相が弱い。正直なところ“正攻法”とは言い難い真相であり、そこに至る流れに説得力がないのだ。物語自体の推進力も弱い。残念ながら、いわゆる「上級国民」をミステリで描こうという想いが、ミステリとして結実し損ねたように思う。この路線を進むのであれば、ミステリとしての骨格を鍛える必要があろう。『ポートアイランド連続〇〇事件』が、使い古されたトリックを採用している点はやはりマイナス評価に繋がる。その反面、生成AIを読者に伝える手腕は優れており(こちらは今後ライバルが多数生じるだろう)、また、軽みのある語り口も魅力だ。ただしそれらの長所も、ミステリの賞で最終選考に推すという観点では、やはり力不足であった。ミステリにこだわらずに御自身の長所を活かす器を探してみてはいかがか。『Moanin’-モーニンー』は、風俗情報サイトの内幕劇/抗争劇と警察小説を大阪を舞台に融合していて、まずまずテンポよく読ませる。登場人物は多いが、的確な描き分けが出来ているからだろう。しかしながら、二次選考を突破することを考えると、抗争劇としても警察小説としても新鮮味に欠けており、それを補うような何か(例えば圧倒的な筆力)にも欠けていた。難しい課題ではあるが、そのプラスアルファを探して戴きたい。読ませる力は確かに感じられるので。
 二次選考を通過する作品においても通過しない作品においても、少なくない割合で、現代日本とは異なる世界を舞台とした作品が応募されてくる。そうした世界の造りが甘く、マイナス評価となった作品について、長所を含めて記す。
『その青をこえていけ』では、「死者の脳を五分蘇らせる」「AIが捜査官となる」というような未来的な要素が作品の根幹にあるが、その背景として描かれる2047年にそれらしさがない。これら(およびラストに関わるネタ)を物語に投入したいが、現在では不可能なため、時代をずらしただけに思えてしまう。ストーリーそのものは悪くないだけに残念。続く『蜜蜂を飼う人』にも似た弱点がある。未来設定の物語なのだが、作中世界が未来っぽさに欠けるのだ。これは第一部での仕掛けを実現させるための手段でもあるのだろうが、それにしても、賞争いと考えると無防備すぎる(裏返していえば、第一部末尾までは自然なものとしても読めて驚いたとも言える)。第一部末の驚きから先についていうと、三部構成とする意味は一応存在していて好感が持てるが、それを読み手に納得させるには、人間型アンドロイドという存在が表面的すぎた。いくつもの着想が、それぞれ生煮えのままに作品に同居しているので、個々の着想と全体のバランスを考え抜く必要があろう。『記憶の彼岸』で著者は、人の記憶を媒体に記録できる技術を登場させている。そもそも社会的にも強力な技術であり、また、ミステリ的にもあれやこれや出来てしまう技術であるにもかかわらず、その使い方がかなり小手先のように思える。真相を明かされても「こんな強力なツールを、そんなかたちでしか使わないのか」という勿体なさなのだ。技術を活かすべく、プロットやトリックのありかたを深く検討するのがよかろう。『義賊の叫び』からは、金融関連の専門知識をわかりやすく語る才能を感じるのだが、物語の展開が遅い。また、部分鎖国という、社会生活面で非常に大きな影響を与える設定を導入しているが、それが活かされていない点もマイナス。“犯人”像もミステリとして新鮮味がない。書き手として明確な強みを持つだけに、それをどう活かすかを徹底的に考え抜くべきだろう。
 という具合に22作品について述べてきたが、最後にもう一言。
 今回の候補作のなかには、他の賞で落選した作品も含まれていた。今回に限った話ではないが、今回は特にその比率が多かった。もちろんなんらかの改稿のうえでの応募だろうが、自分自身に関していうと、読むのは二度目と感じるほど“同じ”作品は、二作品あった。落選した賞との相性が悪かったと感じて、その原稿を本賞に投稿するのは、落選後であれば二重投稿にはならず、書き手の自由である。ただ、その際には、デジタル的に簡単な改稿(全置換で題名や登場人物名を変更するとか、エピソードの前後を入れ換えるとか)に止めるのか、あるいは根幹から磨き直すのか、是非一考して戴ければと思う。
 選考委員としては、他の賞の当落を判断に加えることはしない。純粋に目の前の作品の魅力だけで評価する。そうした機会に向けて、新たな相性に期待して落選原稿の大部分を流用するのか、自作を改善する好機として活かすのか、あるいは、他賞での落選時の選評などを参考に新作を書き上げるのか。決断は、投稿される方々に委ねられている。

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