第24回『このミス』大賞 2次選考選評 千街晶之
自信を持って最終選考に推せる作品を残せた
『このミステリーがすごい!』大賞の二次選考通過作品は6~7作のことが多いけれども、第20回、第21回、そして今回と、最近は8作というケースも増えている。負担が増える最終選考委員には申し訳ない限りではあるが、二次選考委員の意見が割れるとどうしてもこうなってしまう。今回、二次選考委員が3人ともAをつけた作品が1作もなかったことからも本命不在なのは明らかだが、出版できそうな作品はそれなりに多いと思う。
二次を通過した8作のうち、私が特に高く評価したのは『人間は生きてる限りアイを知る』と『ぼくたちの告解』だった。『人間は生きてる限りアイを知る』は、不老不死の身となってしまった少女を主人公にしたことで、不死者と限りある生の人間それぞれの悲哀が浮かび上がってくるし、特殊設定ミステリーとしてもあまり類のないアイディアがある(特に第二話には驚いた)。やや観念的なところは好き嫌いが分かれそうではあるが、自信を持って最終に推せる出来だ(ただし、タイトルは作品世界にあまり合っていないので変えたほうがいいと思う)。
一方『ぼくたちの告解』は、過去の受賞作で言えば、くわがきあゆ『レモンと殺人鬼』を想起させる作風だ。第一部で紫金陳『悪童たち』のような子供たちの倒叙ミステリーと思わせ、第二部では警察官視点になるので、この人物が探偵役として事件を解明するのかと思いきや、更に第三部では……という二転三転ぶりが面白かった。第一部から仕掛けられていた罠も見事に決まっているし、それが明かされてからもまだどんでん返しが続くのもいい。ダイイング・メッセージの扱いに疑問は残るも、ミステリーとしての完成度は極めて高い。
『データで全てはわかりません!』は、電車が鹿を轢かないための予防策といういかにも奈良県らしい発端が愉快だし、風変わりなコンペに隠された企みが浮かび上がってくる展開が飽きさせない(アクションが入るあたり、ややサーヴィス過剰と感じる読者もいるかも知れないが)。過去の受賞作で言えば、南原詠『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』に近いテイストだ。
『龍犬城の絶対者』は連作形式の歴史本格ミステリー。廃帝・宣統帝が暮らす紫禁城という舞台設定が魅力的だし、扱われる謎も血腥いものから「日常の謎」に近いものまで幅広い。この人の原稿は昨年の二次選考でも読んだが、今回のほうが出来はずっと上であり、こういう歴史ものに合っている書き手なのかもと感じた。ただし、「復辟」が最終ページまでずっと「腹辟」になっているなど、誤変換が目に余る点は昨年から改善されていない。
『馬と亀』は、主人公の一方が新米女性刑事、他方が中年の悪徳刑事……というありがちな設定と思わせておいて、この二人をなかなか対面させず、並行して進んできた物語をクライマックスで交錯させる構成が「技あり!」である。今回、候補として上がってきた警察小説系の作品では一押しだ。
『アナヅラ様の穴場』は、話の骨格自体はそんなにユニークではないかも知れないが、アナヅラ様という不思議な語感、そして死体を呑み込んでくれる巨大な穴という非現実的な設定が妙な味を醸し出していて捨て難い。怪作として語り継がれる予感がする。
『名探偵・桜野美海子と天国と地獄』は美点も欠点もはっきりしている作品。何のためにここまで大がかりなトリックを弄さなければならないのか説得力に乏しく、トリックのためのトリックに堕しているように感じる。ところが、そのトリックそのものは拍手喝采したくなるくらい素晴らしい。読者への挑戦が2回挟み込まれている必然性もある。これを二次選考で落としてしまうのは忍び難く、難点があるのは承知の上で残すことにした。
『ミラーリング』は私は最低点をつけた作品。他のお二人が高評価をつけた理由である、タイトルに複数の意味を持たせた点については評価するものの、最初の章で少女を発見するくだりの無駄だらけのくどいやりとりや、いちいち「そう」「はい」「え?」といった相槌をしつこく入れてくる点など、とにかく会話が読むに堪えない。「そう言えばチビはどうですか?」「チビ?」「えぇ」「チビとは?」「え?」というやりとりのあたりでもう読むのをやめたいとすら思った。人間同士の実際の会話はそういう無駄だらけの冗長なものではあるが、小説でそれをリアルに再現する必要は全くない。
次に、もう少しで二次を通過できたと感じた作品から述べる。『その青をこえていけ』は、書き慣れた筆致の作品で、冒頭で読者をギョッとさせるつかみも抜群。いくらなんでも人が死にすぎるとは思うが、飽きさせない展開も合格点。ただ、登場人物がいまひとつ魅力に乏しいので強くは推せなかった。『探偵VS.サイコキネシスト 奇跡の密室は崩れない』は二組のコンビのどちらが先に真相に辿りつくのか読めないあたりが面白かったが、ダイイング・メッセージのわかりにくさが難点。『誰のものでもない』は、展開も文章もまずまず合格点。だが登場人物が限定されているので真相の見当がつけやすいし、作家対AIの勝負の見せ方にはもう少し工夫が要るのではないだろうか。『家族の刻印』は、認知を求める子供側ではなく、認知した記憶がない親が主人公というのが目新しい。ただ、真相が早めに見当がついてしまうのと、淡々とした展開はややマイナス。
『ノーサンライト』は、この原稿単体としては面白く読めたものの、風変わりな殺し屋たちのバトルロイヤルを描いた作品は、新人賞の予選委員をやっていると山ほど読むことになるので新味はない。伊坂幸太郎作品の影響力の功罪を感じる作品だった。全く同じ評価となったのが『Moanin’ -モーニン-』。これも単体としては悪くない出来だが、新人賞の予選で何度読んだかわからないタイプの警察小説であり、二次選考を制するほどの突き抜けたところがない。良くも悪くも水準作にとどまる。
ここからは更に評価が落ちる。『ベルガモットの放火魔』は、連続放火事件だの政治家一家の娘だのといったスケールの大きな設定のわりにこぢんまりとした話になってしまっている。同じことが言えるのが『ポートアイランド連続〇〇事件』だが、登場人物のコミカルなやりとりは楽しめた。『義賊の叫び』は、一次選考委員が指摘している通り、そう上手くはいかないだろうという印象を否めない。これと設定が似ているのが『財務省爆破!』だが、連続しているかに見える事件があまりにバラバラすぎるし(これは『ベルガモットの放火魔』も同様)、同じ人物の台詞をわざわざカギカッコを別にして続けて書いているので、誰がどの台詞を喋っているのかわかりづらい。長すぎるのも減点対象。
『記憶の彼岸』は、主人公に全く魅力がないのが最大の問題点。主人公が必ず善人や正義の味方でなければならないわけではないが、悪党なら悪党なりの、駄目人間なら駄目人間なりの魅力というものを表現できていなければ読者を引き込めない。『夏囚』は、終盤で故人の視点が入るのは小説としていかにもまずいし、モデルとなった出来事が露骨すぎて出版できないのではという意見も出た。『蜜蜂を飼う人』は、途中である設定が明かされるまでが長すぎる。たぶん、短篇向きの内容なのでは。『邪道の釣り師』は、釣りの要素のあるミステリー小説ではなく、ミステリーの要素のある釣り小説という印象だった。
最後に一言。他の新人賞選考とのスケジューリングの都合により、私は今回をもって二次選考委員を退くこととなった。今回、自分がA評価をつけた5作をすべて最終に残せたので、二次選考委員として有終の美を飾れたということになるだろうか。ただ、過去に私が二次選考で強く推した作品は大賞を受賞できないことが多く、その意味では応募者を無駄に期待させ、結果的に失望させることも多かったのではないかとも思う(特に、第20回で最終に残った「奈落の空」の角張智紀氏に対しては、「個人的には歴代大賞にも引けをとらない作品だと思うので、何らかのかたちで世に出るべき才能であると断言しておく」とまで書いたのに、隠し玉としてすら出版されなかったことには、二次選考委員として本当に申し訳なく思う)。来年からは恐らく一次選考委員というかたちで携わることになる筈なので、引き続きこの賞を見守っていきたい。















