第24回『このミス』大賞 1次通過作品 財務省爆破!
財務省が爆破され、テロ行為はさらに続く
事態の収拾役に指名されたのは
敬語が使えない元財務官僚だった
『財務省爆破!』中野雅至
シンプルだがインパクトのある題名だ。そしてその題名の通り、本書の冒頭で財務省は爆破される。
爆破といっても省の建物全体が粉々にされたわけではなく、事務次官室が破壊されただけで、死者も出なかった。しかしながら、この事件を皮切りに、財務省への不満を爆発させたかのようなテロ行為が連続して発生する。その意味では、極めて象徴的な爆破であり、同時に、読者の心を冒頭で掴むという役割もしっかりと果たす爆破であった。
物語を読み進むにつれ、読者は、この小説がテロ犯との闘いを中心とした冒険小説の類いではないことに気付くだろう。この小説は、官僚を中心に一部の政治家も含めた国の中枢の面々が繰り広げる争いを描いた小説なのである。その争いが目に見えるかたちで表出したのが財務省爆破であり、それに続く財務省テロなのだ。また、こうした人々の争いである故に社会への影響は大きく、物価の急上昇といった現象も起きてしまう。本作は、官僚や政治家の争いを彼らの間だけのものとして描かず、国民生活をも巻き込んでしまうものとしてしっかりと描いていて、読み物として愉しい。しかも日本社会の閉塞感や疲弊感を体感しているであろう多くの読者にとっては、この国の姿を理解する一助としても興味深く読めるだろう。ちなみにミステリとしては、“黒幕捜し”として読めるので不満はない。
なお、気になる点も散見される作品ではある。探偵役(というか事態の収拾役)を務める元財務官僚が頭も切れるし行動力も胆力もあってスーパーヒーロー過ぎるし(敬語が使えないという特徴は思いのほか作品をドライブするうえで効果的だった)、また、作中のAIの扱い方や描写にも改善の余地があり、さらに小説としての粗さもあるのだが、それでも国民の生活を巻き込んでまで繰り広げられる暗闘に強い迫力を感じた。減点要素もあるが、加点要素の力強さを評価して、二次に推す。
(村上貴史)














