第24回『このミス』大賞 1次通過作品 家族の刻印
一五年前に五歳の子を認知したことが戸籍に記されている
だが、認知の記憶はない
一五年前に一体何が起きていたのか……
『家族の刻印』四方響
三人の中心人物のうち、二人が老人である。齢八〇に近い老人だ。もう一人の中心人物は、老人の一人の娘。高齢の人物が中心人物として並んでいる。だからといって妙な先入観に囚われる必要はない。物語はしっかりと脈動している。うわついて暴れることはなく、だ。
老人の一人、丹羽和馬は、経済的に成功した人物だ。東京郊外に広大な土地を持つ地元経済界の重鎮である。その和馬はある日、自分の戸籍に奇妙な記載があることに気付いた。一五年ほど前に、自分が当時五歳の祐樹という男児を子として認知したという記載である。もちろん和馬は認知などした記憶はない。祐樹の母として記載されている徳永智恵子という人物にも心当たりがない。一体一五年前に何が起きていたのか。そしてこのまま自分が死を迎えたときに、どんな混乱が起きてしまうのか。和馬は旧友にして丹羽家の顧問弁護士である島津由紀夫と、その娘でやはり弁護士である絵里に相談し、真相究明を図ることとした……。
一五年前に何があったのか。疑問の設定はシンプルなのだが、このシンプルな疑問が、いくつもの興味深い物語を生み出す。まずは徳永智恵子の動機だ。彼女は何故祐樹を和馬の子として認知させたのか。手段も謎めいている。和馬の与り知らぬまま、どうやって正式に認知という記録を戸籍に残せたのか。さらに、この認知を法的にどう処理するかという目の前の問題もある。和馬は妻に先立たれ、息子を数年前に事故で失っており、唯一の跡継ぎである孫にすべてを譲ろうと考えていた。そんなところに祐樹という新たな相続人が現れたのだ。放置するわけには行くまい。かくして物語は多面的に進んでいくことになるのである。一五年前をそれぞれのやり方で探る由紀夫と絵里の姿でも読ませるし、そこで浮き上がる丹羽家の内情もまた、物語として読ませる。徳永智恵子と祐樹にも、もちろん半生がある。そうした様々な想いを、著者は丁寧に描いている。絵里が主導する裁判所での緊迫感のあるドラマを含め、全体として読み応えは抜群だ。
心が弱かった登場人物はいるが、悪い奴はいない――本作はそんな家族ドラマである。読ませてくれてありがとうと言いたくなる。
(村上貴史)














