第24回『このミス』大賞 1次通過作品 ノーサンライト
誘拐屋→殺し屋→回収屋というシステムに
スリという異物が紛れ込む
ノンストップのコミカルクライム小説だ
『ノーサンライト』楠夏目
誘拐屋がターゲットをさらう。殺し屋がそのターゲットを殺す。回収屋がターゲットの死体を回収して処理する。この三つの「屋」は、個別の情報屋を通じてコントロールされており、接点を持つことはない。全体を統べるのは、管理官だ。そんなかたちで、万一の際にも全体に影響が及ばない「誘拐屋→殺し屋→回収屋」というシステムが、裏社会には存在していた……。
このシステムの設計がまず、読み手の興味を引く。しかもその紹介の仕方が上手い。ある一人のターゲットが“処理”される様を、作品の序盤で例示するのだ。それは同時に、それぞれの「屋」の人物紹介を兼ねている。誘拐屋の二人組、殺し屋(これは単独行動)、そして回収屋の二人組。それぞれの個性が、システムと同時に読者に伝わるのである。
そうしたシステムと人物の紹介が一段落するのと入れ替わるように、著者はまた新たな情報を読者に伝える。“殺し屋殺し”の噂だ。殺し屋をはじめとして、このシステムのなかで動いている「屋」を殺す人物が存在するというのである。そう、著者は読者に新たな刺激を差し出してくれるのだ。
そして序盤の例と同じ誘拐屋と殺し屋と回収屋に新たな依頼が入って物語は進んでいくのだが、実は序盤からもう一つのストーリーが存在している。スリの物語だ。そのスリの物語が裏社会のシステムの物語と絡み、読者が先を読めないかたちでこの作品は展開していく。頁をめくる手が止まらないのだ。
構成で惹きつけるだけでなく、文章も安定していて読みやすく、さらにコミカルな味やちょっとした仕掛けもあって、迷わず二次に推すことを決めた。
(村上貴史)














