第24回『このミス』大賞 1次通過作品 夏囚
あの夏の不可解な采配
「甲子園の悪人」と呼ばれた監督はなぜ
死を選んだのか……?
『夏囚』碧井丈
甲子園で三度の優勝を成し遂げた高校野球の監督・山城が自殺した。勝利至上主義で非情な采配を振るった山城は、「甲子園の悪人」として批判されることも多かった。
彼は過去に一度、極めて不可解な決断をしていた。二〇二一年の夏。山城率いる青葉高校野球部には、高校生離れした才能をもつピッチャー・牧島がいた。だが、山城は彼の将来を考慮して登板させず、青葉高校は県予選の決勝で敗退した。甲子園にこそ行かなかったものの、牧島はやがてドラフト1位でプロ入りし、のちに渡米して活躍している。
出版社でアルバイトとして働いている壮太は、かつて青葉高校の野球部で山城の指導を受け、牧島とも同学年のチームメイトだった。彼はフリー編集者の凛子を手伝って、山城の自殺の真相を探る。亡き監督の真意を探るため、壮太と凛子は、監督の妻やかつてのチームメイトなど、さまざまな人々を訪ねる……。
監督の死をきっかけに、秘められた過去を探索する物語だ。同時に、それは壮太自身の過去との対峙でもある。牧島のいない試合でピッチャーを務め、そして敗れた過去。ずっと割り切れない感情を抱えていた壮太が、「あの夏」に囚われていた自分を解き放つ物語でもある。
私自身は野球にほとんど関心がないのだが、この小説には大いに引き込まれた。
強烈な驚きを仕掛けるタイプの作品ではない。謎としては小粒。おそらく、野球に詳しい方なら真相に見当がついてしまうかもしれない。
だが、作中に配置されたすべての要素が、それぞれの役割を十分に果たしている。真相を解き明かすまでの流れが、壮太が過去と向き合い、新たな一歩を踏み出すまでの過程と重なりあっている。
強烈なエースこそいないけれど、たいへんバランスの取れたチーム……じゃなかった、小説に仕上がっている。
(古山裕樹)














