第24回『このミス』大賞 1次通過作品 誰のものでもない
作家とAIが小説を競い合うイベント
だが、作家は姿を消した
不可解な告発の真相は……?
『誰のものでもない』源内五織
『このミス』大賞の募集要項には、生成AIの利用について特に何も記されていない。今のところは。
作家とAIの小説対決。その過程で起きた事件を描いたのがこの作品だ。
永文社が開催する創作電脳短編が反響を呼んでいた。人間の小説家が書いた作品と、小説執筆用AIに出力させた小説を、作者を隠して公開する。読者はすぐれた作品だと思った方に投票する。だが、「人間側」の作家・深江が失踪し、賞は半年間延期されることになった。かつて深江の小説教室に参加していた選考委員の作家・西園は、深江の行方を調べようとする。一方、永文社には脅迫状が届いた。脅迫者は、賞の再開を要求し、さらに深江の盗作を告発していた……。
生成AIによる小説と、SNS上での騒動。きわめて現代らしい題材を扱いながら、物語は思いもよらない方向へと転がっていく。テンポよく新たな展開を提示して、読者を飽きさせずにラストへと引っ張っていく。読者に提示する情報を巧みに制御して、意外な展開のもたらす驚きを演出してみせる。
どこに着地するか分からない物語をうまく構築している。題材と事件の結び付け方はやや強引ではあるものの、一次選考通過には十分な力を持つ作品だ。
(古山裕樹)














