第24回『このミス』大賞 1次通過作品 蜜蜂を飼う人

あこがれの田舎暮らしを愛する妻とはじめた男
彼にはいくつも秘密があった
殺しが殺しを呼び、やがて暴かれる

『蜜蜂を飼う人』多幸八智朗

 第一部の語り手は志水洸太郞。彼は東京で不倫していた妻の咲良を殺し、移住先の床下に遺棄し、その替え玉として最新型AI搭載のヒューマノイドを購入「サチ」と名づけ、畑仕事や蜜蜂を飼育しながら一緒に暮らしている。だが、隣の家に梶本という男が引っ越してきたことで、志水の心は乱れていった。
 妻を殺してかわりにそっくりなAI妻と暮らすというアイデアだけ見ると凡庸かもしれないが、それを現実らしく思わせる描写力がしっかりしている。畑仕事や養蜂の様子がじゅうぶんに物語られているのだ。ちょっとやりすぎな部分やぎこちなさもいくらか感じるものの、ドラマの描き方とそのズレた展開、ラストに至るまで、なかなか読ませるのだ。

(吉野仁)

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