第24回『このミス』大賞 1次通過作品 記憶の彼岸
他者の脳記憶データをレビューする配信者が
殺人犯のそれを手に入れて闇落ちしていく
未来的な技術と迷惑系を組み合わせたSFミステリー
『記憶の彼岸』琴吹耶生
脳のデータ化技術の進歩に伴い、記憶データの保存デバイス“メモリー”と再生用ヘッドセットが普及した社会。荒稼ぎして成り上がるという野心を抱く大学生の「俺」こと伊崎智也は、転売サイトに出回るメモリーをレビューするVチューバー“メモリーハンター”として活動していた。そんなある日、差出人不明のメールでメモリーが届き、伊崎は大学図書館の殺人事件にまつわるものだと気付く。その内容を編集した動画が反響を呼び、人気配信者となった伊崎は関連動画を次々に投稿し、常連視聴者の大学生・新井と知り合った。
二人はコラボ動画を配信するが、深夜の工学部での生配信中に伊崎が襲われ、翌朝に新井の変死体が発見される。取り調べを受けた伊崎が警察を嘲っていると、新井を殺害する瞬間のメモリーがメールで届けられた。伊崎はそれを動画にして配信し、世間の猛烈な批難を浴びることになる。
記憶の映像化は清水玲子の漫画『秘密』を思わせるが、本作のそれはひどく野放図なものだ。記憶データが売買される状況、悪質なVチューバーなどを絡めたサスペンスは、やがて模造記憶の領域に踏み込んでいく。架空の技術をシチュエーションに活かし、適度なリアリティを演出しつつ、ミステリーの枠を逸脱しないストーリーに着地させる。そのバランス感覚は書き手の資質に違いない。尖った設定と解りやすさを備えたSFミステリーの佳作である。
(福井健太)














