第24回『このミス』大賞 1次通過作品 邪道の釣り師

不正行為に長けたプロの釣り師が
魚にまつわる不可解事を次々に解き明かす
趣味性の強いライトな私立探偵小説

『邪道の釣り師』水庭滉明

 メーカーと契約して釣り具を開発するプロ釣り師の「俺」は、技術不足を補うためにルール違反を重ね、不正行為を知り尽くしたエキスパートだ。その能力を買っているメーカー社員の林田は、障害物に隠れた魚が見える“高性能すぎるソナー”の噂を知り、イカサマだと断じて調査を命じた。本作はそんなエピソードで幕を開ける。
 林田や知人の釣り師・止木の依頼を受けた「俺」は、釣り堀の重量ランキングの一位が異常に突出した理由、カリスマ釣り人の日記から破り取られたページの内容、小さな魚が大きな魚を食べたと思われる現象、魚を放流するだけの怪しい仕事、育った魚が消えていく養殖場、ルアーを宙に浮かせて魚を釣る男、入場料が不自然に安い水族館といった謎を解明した後、問題のソナーを使える大会に参加し、その秘密を暴くことになる。
 不正に詳しい釣り師が調査に励むプロットは、私立探偵小説のユニークなバリエーションに違いない。奇抜なアイデアの数々に加えて、餌が仕込まれたルアー、電流を流す釣り竿、全自動リールなどの“不正をすればまともに使える”道具の造型も面白い。謎解きはいかにも小粒だが、マニアックになりがちな題材だけで話を作り、特段の興味や知識がなくても楽しめる形に仕上げた点を評価すべきだろう。

(福井健太)

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