第24回『このミス』大賞 1次通過作品 探偵vs.サイコキネシスト 奇跡の密室は崩れない

スピリチュアル研究家を殺したのは、敵対団体の「奇跡」の力?
サイコキネキストが「うっかり」作った密室が事態を思わぬ方向に動かす

『探偵vs.サイコキネシスト 奇跡の密室は崩れない』入谷眞琴

 カルト団体アバターチェンジャーを追う占い師の椎名と助手の来夢は情報収集のため、アバターチェンジャーと敵対するスピリチュアル研究家の佐々尾の邸宅を訪ねた。かつてホテルだったというその洋館にいたのは佐々尾の身内や使用人の他、複数の来客たち。その日、アバターチェンジャーは「奇跡を起こし、いにしえの聖なる刃で対立者を罰する」と生配信で宣言。その配信が終わったあと、佐々尾が密室で死んでいるのが発見された。オカルティックな力によって殺されたかのような現場に、そこにいた人々は戸惑う。さらに深夜、もうひとつの殺人がまたも密室で発生し──。
 面白いのは主人公の椎名に念動力があること。しかも「近くにあるものを少しだけ動かせる」という中途半端さがいい。最初の事件が密室になってしまったのは椎名がうっかり使った念動力のせいで、そのため事態が混迷を深めていく。ひとつイレギュラーな要素が入ったことではからずも多重解決のように解釈が出てくる(しかもそれが間違いであることは読者にはわかる)構造が実に楽しい。アクションシーンもあって展開にめりはりが効いているのも長所。
 キャラクター造形もいい。主人公らしくミステリアスな椎名もさることながら、頭脳派を目指しているのに実際は肉体派の遠野と元警察官の椿という探偵コンビも使い勝手がいいし、何より来夢の設定には驚かされた。不可能興味に超能力というスパイスを効かせただけの話かと思ったら、来夢の存在により思いがけないテーマが浮かび上がったのには感心。
 ただ、ダイイングメッセージのくだりは、わかりにくい上に今ひとつ効果がないように思える。現場にいた他の人物(犯人を含む)も、情報量が多い割にキャラクターが薄くて印象に残らないのも気になった。

(大矢博子)

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