第24回『このミス』大賞 1次通過作品 ベルガモットの放火魔
火災現場に残るベルガモットの香り
続く放火事件の陰に隠された事実を追う
「上級国民」二人の真意に注目せよ
『ベルガモットの放火魔』竹条ひと花
ベルガモットのオイルが使われる放火事件が相次いだ。現場の映像に紫の髪の人物が映っていたことから大学生の御幸川祥子が警察の事情聴取を受ける。同じ大学の諏訪律稀の口添えでその場はおさまったものの、祥子は自分の手で疑いを晴らすと宣言、はからずも律稀はそれに協力することに。そしてこれまでの火災はすべて、彼らのゼミの准教授の近くで起きていたことを発見する。しかしSNSではすでに祥子が犯人という噂が広がって……。
容疑者が少ない中でどう落ちをつけるのだろうと思っていたが、意外な真相で驚かせてくれた。だが本編で最も特筆すべきは探偵役たちの環境だろう。有名政治家の家系と芸能人夫婦の養子、ともに学内の有名人である。目立つからこそネタにされやすく、特別視されることもある。「上級国民」だと線を引かれ、有名人だからデマを流そうと傷つけようとかまわないと思われる。そういう風潮が実にうまく物語の中に取り入れられていた。同じ感情を持つ人間なのにという思いと、それでも「庶民」とは根本的に考え方や感じ方に差があるという自覚のジレンマも読ませる。
ただ、真犯人が犯罪に手を染めた動機については、やや弱い。確かにミステリ的なサプライズは大きいが、普通なら他の方法を探ったりするであろうところを、「こうするしかなかった」と読者に納得させるだけの心理的説得力に欠ける。大事な部分なので、ここはもう少し練ってほしいところ。
(大矢博子)














