第20回『このミス』大賞 1次通過作品 残照の海

妻の命を奪った者を追い詰める。
刑事の孤独な戦いが幕を開ける。
真実を追うハードボイルドな物語

『残照の海』高治博

 今どき珍しい……と言わざるを得ない、ストイックなハードボイルドである。
 刑事の「私」と弁護士の尚子。職業上は相容れない夫婦で、二人とも互いに身寄りがなく、子供もいなかった。彼女は仕事でA市に向かった。二、三日の予定だった。だが、彼女が帰ってきたのは八日後で、白い布に包まれた骨壷に入っていた。
 尚子の死は殺人だった。被害者の家族であり事件の捜査にも参加できない「私」は、遺品の手帳を手がかりに、復讐のためA市に向かった……。
 抑制の効いた、それでいて印象に残る語り口。多弁ではないが、行動を積み重ねて真相を追い求める「私」のキャラクター。追求の果てに明らかにされる真相と、それに対する「私」の決断。見たことのない新しさではなく、懐かしさすら感じる典型的なスタイルだ。
 そういえば、本作は現代を舞台にしているものの、スマートフォンを扱う場面はない。遺された手帳、届けられた手紙。そんなアナログな手がかりを頼りに「私」は真相を追うのだ。
 オールドスクールな作品と言っていいだろう。だが、単なる懐古趣味と切って捨てるには惜しい、オールドスクールならではの滋味を感じさせる作品だ。

(古山裕樹)

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