第20回『このミス』大賞 1次通過作品 フランダースの犬たち

薔薇戦争に荒れる十五世紀半ばのイングランド
凄腕の密偵マリア率いる護衛団は、
ヨーク家の幼い兄弟を無事大陸に亡命させるべくフランドル地方を奔走する

『フランダースの犬たち』五島和哉

 時代は十五世紀半ば。百年戦争終結後の内乱に荒れるイングランドとヨーロッパ経済の新たな中心として繁栄を誇るフランドル地方を舞台にした、謎とスリルに満ちた柄の大きな国際謀略活劇冒険小説です。
 ランカスター派とヨーク派が王権を巡って権力闘争を繰り広げる薔薇戦争。一進一退の攻防が続く中、人質生活を余儀なくされているヨーク家の幼い兄弟ジョージとリチャードの身を案じた母セシリーは、安全な大陸への亡命を計画する。謎めいたルーシ人の少女マリア、一癖も二癖もあるハンザ同盟の商人ハインリヒ、凄腕の水兵クリス、セシリー腹心の密偵イザベラからなる護衛団は、ブルゴーニュ公の庇護を受けるべくブリュージュを目指す。相次ぐ襲撃、姿なき監視者。亡命計画の背後に見え隠れするイングランド王位を狙う壮大な陰謀劇。欲望と策謀が絡み合い、誰が味方で誰が敵か判然としない中、幼い兄弟は無事安全圏にたどり着けるのか。
 不穏な空気がしのびよる幕開けから乾坤一擲の大勝負に出るクライマックスまで、個性的なキャラクターによる三人称多視点を駆使して緩急自在に物語を操り、一気に読ませる手際が見事です。権力者間の政治闘争、中世ヨーロッパの経済・宗教の状況、さらにユダヤ人問題まで幅広く視野に収めた上で、亡命計画の成否という太い軸をぶらさない構成力により、あくまでもミッション遂行型冒険小説として楽しめる点もプラスポイントです。さらになによりも感心したのは、登場人物の口を借りて作者が読者に向かって時代背景を長々と説明するという歴史物にありがちな欠点が見られない点です。薔薇戦争期という日本人には馴染みが薄い上に複雑に入り組んだ中世イングランドの状況を、登場人物間のやり取りと状況描写で無理なく理解させる。現代人の目から見ると、年齢の割にリチャードがしっかりし過ぎていると感じなくもないですが、身分と時代を考えれば問題視するほどではないと思います。一次通過作として自信を持って推します。

(川出正樹)

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