第19回『このミス』大賞1次通過作品 スタンドアローン

ノブたちが35年前に埋めたタイムカプセルから、
当時の殺人事件に疑問を抱かせる品が出てきた。
ノブは、ユニークな二人の仲間とともに真相の再検証に挑む。

『スタンドアローン』鎹ミト

 ノブの故郷は35年前、ダムの底に沈んだ。そのダムが渇水によって干上がっているという。つまり、今ならば故郷を訪れることが可能なのだ。同窓会で小学校の仲間が集まり、ノブたちは当時埋めたタイムカプセルを掘り出すことにした。開封したカプセルからは、懐かしい品々とともに、彼等の憧れだった雪乃先生が納めたらしい品も出てきた。だが、その品がどうにも奇妙なのである。婚姻届と結婚指輪だったのだ。しかもその婚姻届に記された名前は塚本先生。35年前、雪乃先生は塚本先生に殺されたのに、いったい何故こんなものが……。
 同窓会を機に過去を探るミステリである。ノスタルジアを感じさせる筆致が心地良く、さらに、登場人物たちが魅力的だ。主人公のノブは、まあ無難な平均点の魅力なのだが、彼の相棒を務める千紗都という女性がよい。彼女は、裁判の途中で精神を病んでなにも語れなくなってしまった塚本先生のヘルパーをしている三十路の女性なのだが、積極性や機転が好感を抱かせるのである。
 この二人が進める雪乃先生殺人事件の再検証に、さらにもう一人、小学生時代の芥川という仲間も参加する。芥川は10歳の頃の事故で死亡したとされていたが、記憶は失ったものの、実は35年間も実家の地下の隠し部屋に引きこもって生活していたというのだ。ノブや千紗都と偶然出会った彼は、現在でもその地下室から出るつもりはないが、現代のテクノロジーを用いて、二人の調査にリモートから参加する。遠隔探偵というか、安楽椅子探偵のバリエーションというか、なんとも特殊な形態の探偵団メンバーであり、この3人組を個性的なものにしてくれている。
 彼等が調査を進める中で、ダム建設の実態や、反対派と賛成派の争いといった過去が掘り起こされていくのだが、これらが単に著者が勉強した情報として開陳されるのではなく、作中人物たちの行動として読者に伝えられている点が、まず素晴らしい。そのうえで、雪乃先生の事件にきっちりと絡んできており、ミステリとして丁寧な造りであると感じさせる。けっこうな加点要素だ。
 そのうえで、ノブたちが突き止めた真相の扱いも巧い。過去の罪を現在の罰に結びつけるための仕掛けでも愉しませてくれるのだ。
 派手な小説ではないが、好感度の高い主役たちが物語をなめらかに運んでくれる一作で、おそらくそのなめらかさの背後には、きちんと作品と向き合ってプロットを練ったであろう著者の姿勢が感じられる。ダム知識に依存した書き方ではなく、今後もいくつもの小説を安定して書いていけるであろうというスタイルなのだ。こうした書き手は、二次選考に推したくなるのである。

(村上貴史)

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