第19回『このミス』大賞1次通過作品 ダウト・イット ~Doubt It~

不倫の帰りに轢き逃げした主人公。
犯罪発覚を恐れる主人公に、助け船とともに持ちかけられた謎の“ゲーム”。
負ければ拉致された不倫相手が殺される……。

『ダウト・イット ~Doubt It~』鹿西絵夢

 とにかく強烈なサスペンスだ。
 非は自分にある。悪いのは全部主人公の鹿西真人だ。まずは不倫。そして不倫からの帰り道で交通事故を起こし、そのまま逃亡。要するに轢き逃げだ。会社でも家庭でも清廉な人物を演じていた彼は、友人を頼って証拠隠滅を図る。そんな彼に不倫相手から電話が掛かってきた――だが、電話の向こう側にいたのは不倫相手ではなく、「それがし」を名乗る人物だった。「それがし」は、鹿西が轢き逃げした遺体を別の場所に遺棄したいう。つまり、鹿西の犯行の跡を消してくれたわけだ。「それがし」はさらに、不倫相手を拉致監禁したことを告げたうえで、鹿西にあるゲームを持ちかけてくる。「それがし」の嘘を鹿西が見抜けるか、というゲームだ。鹿西が勝てば、「それがし」は口を噤んだまま、負ければ、「それがし」が不倫相手を殺すという……。
 この小説の魅力は、実に明確である。主人公が追い詰められていく様子が、その心が感じるプレッシャーが、とにかく強烈に読者に伝わってくるのだ。轢き逃げを契機とする脅しからゲームへの展開になっているとはいえ、よくあるデスゲームもの(余談だが応募作には相変わらず一定数このタイプの作品があり、デスゲームの設定に説得力がないものばかりでがっかりする)のようにゲームルールの目新しさに走るのではなく、そのゲームによって主人公の心が削られていく様子に軸足を置いて、彼の心理を丹念に描いていく姿勢に好感が持てる。平常心でいられなくなった鹿西が会社でも失敗を繰り返すようになったりする姿が、とにかく生々しくて、読み手の日常と地続きのサスペンスを強烈に醸し出しているのだ。この緊張感を、結末まで途切れることなく維持し続けた著者の力量は、一次通過に十分に値する。
 とはいえ、弱点がないわけでもない。結末に至るピースの一つに夢オチ的な要素があって、二次選考において“あら探し”的な闘いになった場合、そこを攻められる可能性がある。しかしながら、夢オチで作品が完結していない点は心強い。その後に二つほどひねりが加わっているのだ。どうにかリカバリーできていたのではないかと思う。
 いささかネガティブなノイズはあるものの、この一点豪華主義のサスペンス小説が二次選考会でどのような闘いを繰り広げるか愉しみだ。勝機は十分にある。
 最後に少々余談だが、ペンネームからも本作に懸ける著者の意気込みが感じられて応援したくなる。

(村上貴史)

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