第19回『このミス』大賞1次通過作品 クロウ・ブレイン

カラスはなぜ人を襲うのか。
カラス襲撃の先にある鳥インフルエンザの謎とは。
新聞記者の主人公は、真相を求めてひた走る。

『クロウ・ブレイン』東一眞

 カラスが人を襲う――シンプルなネタであり、しかも、ネタそのもので勝負できるほど新鮮なネタではない。というわけで、このネタを一級品のエンターテインメントに仕上がられるかどうかは、ひとえに著者の力量にかかっているということになる。
 で、結論はといえば、上出来だった。夢中になって読まされてしまったのだ。
 まず、導入部に舌を巻いた。実に巧みでなめらかだ。主人公の務める新聞社という組織内部のリアルを語りつつ、32歳の社会部記者である主人公の紹介を行う。情報量は少なくないが、それが自然な流れのなかで提示されていて、まるで淀みがないのだ。また、その過程で、職場の嫌な奴を登場させているのだが、僅かばかりの出番にもかかわらず、彼は読者の心を鮮やかに逆なでする。一瞬で人を不快にさせる登場人物を存在感を持って描くことが、この著者には可能なのだと理解し、その点からも力量を感じた。
 そしてもちろんカラスである。カラスに関する学術的な情報の紹介も実に手際がよく、無味乾燥な説明文とは対極にある。カラスの襲撃シーンの迫力も十分にあり、つまり、データもアクションもいずれもがきっちりと小説になっているのだ。それも上質な。ちなみに本書のカラスは、単に人を襲うだけでなく、パソコンのキーボードをクチバシで叩いて脅迫メッセージを綴ったりするのだが、そんな奇想天外な行動の裏側もきちんと作ってあって好感度は高まる。作中でカラスが引き起こすのではないかと疑われる鳥インフルエンザの謎も、謎としてユニークな展開をしていて惚れてしまう。
 また、主人公が愛すべき人物として造形されているのもよい。少しばかり頑なで愚かで、なおかつ狭い視野で前しか見ていないという設定は、このカラスを巡る謎を追う小説の主人公として適任だったといえよう。
 二次選考における不安点としては、重要登場人物の一人である「美しすぎる生物学者」か。彼女の振る舞いに説得力を感じられない読者がいるかもしれない。この部分を補強しておけば、二次選考には盤石の状態で臨めたのではなかろうか。
 とはいえ、一次で敗退するようなタマでないのは明々白々。二次選考で思う存分闘ってもらおう。

(村上貴史)

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