第19回『このミス』大賞1次通過作品 本能寺の変オブ・ザ・デッド

明智光秀の反乱軍が迫る本能寺で
信長親衛隊とゾンビたちの死闘が始まる!

『本能寺の変オブ・ザ・デッド』壱五六

 目の付けどころがゾンビでしょ。
 思わず某社が海外企業に買収される前のキャッチフレーズを使って書いてしまったが、ゾンビ小説自体はまったく新しくないのである。こういう新人賞をやっているとたくさんくる。うんざりするぐらいくる。それこそショッピングセンターにゾンビが襲ってくるぐらいくる。しかし、そんなゾンビ慣れした自分でさえ、これは感心した小説だった。
 題名がすべてを言い表している。本能寺の変といえば織田信長が重臣・明智光秀の裏切りに遭った歴史的事件である。その背景にゾンビが絡んでいたら、という発想だ。ゾンビ来襲とくれば孤立した環境からの脱出はつきものだが、その舞台に本能寺を持ってきたわけである。ちょっとだけネタを明かすと、ゾンビ発生の原因としてイエズス会の絡んだ因縁を持ってきている。元凶となる化け物の名前はンザンビ。ンザンビ操る屍鬼と信長親衛隊との間で死闘が始まるのだ。しかも間近に迫る光秀反乱軍。
 ここまで書くと歴史を知っている人から、ちょっと待って、でもさ、信長はさ、と注文が入るだろうと思う。そう、この物語もすべてが済んだ後に羽柴秀吉が顚末を聞かされるという構成になっている。信長自身の口から。え、いったいどういうことよ、と気になった人は絶対にこの小説が読みたくなっているはずだ。あなたの想像を超えた変な話である。
 題材はすべて使い古されたものなのに、それらを寄せ集めた結果、他に類例のない独自の作品となった。アイデアだけでできている小説ではないという証左である。伝奇小説の呼吸が骨絡みで身についている人と見た。あまりにおもしろかったので、もしやどこかでデビュー済かと思い検索してしまったくらい。即戦力だと思うし、「このミス」にうってつけの人材である。たぶん量産も可能。ミステリー作家としてはどうか知らないが血中エンタメ濃度は高いはずだ。某社じゃないけど、目指してる未来が違うよね。

(杉江松恋)

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