第19回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹

『疎開村の殺人』平野俊彦
『バスケットボールの福音』岸田智明
『トナカイを探せ!』天田洋介
『スナイパーZ』小池康弘
 
 岸田智明『バスケットボールの福音』は、バスケットボールの強豪チームに挑む少女たちと、そのコーチの物語。非常にぐいぐい読ませる力のある作品でした。とはいえ、ミステリーとしての要素は希薄。強いて言えば「コーチの過去」くらいでしょうか。でも、小学生が歳相応の努力で突き止められるレベルのささやかな秘密です。なにより、物語を読ませる原動力は「このチームはどうなるのか」「強豪との試合の結果はどうなるのか」という興味であり、これをさすがにミステリーと呼ぶのは厳しいと判断しました。この作品ならば、ジャンルを絞らない賞のほうが向いてると思います。

 平野俊彦『疎開村の殺人』は、太平洋戦争末期に北関東のある村で起きた殺人事件の謎を追う物語。説明図付きの密室トリックなどを織り交ぜて、二重三重のどんでん返しで楽しませる作品でした。……なのですが、読むうちに、犯人の企みが成立し得ないように思えてなりませんでした。作中で、ある人物が駐在所の巡査になりすます必要が生じます。が、警察が戦時下で混乱して管理体制が崩壊していたならともかく、戦時下だからこそ組織がフル回転していたことが語られています。駐在所の巡査が他人に入れ替わっていても、いずれ発覚するのではないでしょうか。
 この他にも、人物や社会がきちんと描かれているがゆえに、謎を成立させるための記号的な処理の不自然さが目立つ箇所がありました。語り手が人肉を食べさせられたのではと疑念を抱くくだりも、他の人物描写からするときわめて唐突で、まるごと削除しても支障がなさそうに見えました。可能であれば、他の方に目を通してもらって、他人の目から不自然に見えるところを抽出してもらうのも良いかと思います。

 天田洋介『トナカイを探せ!』は、ビデオレンタル店の店長になった主人公が、失踪した前店長の行方を追う物語。残念ながら、昨年の一次選考通過作に比べると緊密さが欠けていました。登場人物たちが、ストーリーの都合に合わせて無理な動きをしているからではないでしょうか。昨年のように、特異な立場のキャラクターであれば不自然さも目立たなかったかもしれませんが、今回の主人公たちは現代に生きる普通の会社員や高校生。きちんとした人物描写ゆえに、不自然さが気になってしまいました。特に弱いと感じたのが、主人公が謎を追う動機。単に「同じ映画好きだから」というだけでここまで頑張ってしまう、という点に説得力をもたせてほしかったところです。
 冒頭のシーンなどに見られるユーモアや、インドにまで飛んでいってしまう豪快な展開など、魅力のある要素を備えていたので、これからも新たな作品を期待しています。

 小池康弘『スナイパーZ』は、SATのスナイパーを次々と暗殺する狙撃犯を追って、やはり元スナイパーの男が捜査に臨む物語。ドローンを活用した狙撃支援システム、スナイパーたちのコードネームの由来、最後に残された「Z」の意味、国会議員を狙撃するシーンの思い切った犯行方法など、このジャンルでの美味しい要素が詰まった作品で、ソリッドな文体も魅力のひとつでした。
 残念なのは、終盤に初めて語られる重要事項があまりに多かったことです。狙撃犯の過去も、新型の狙撃支援システムの登場も、伏線が乏しいため唐突な印象を受けました。丁寧に伏線を張ると、誰が犯人なのか非常に分かりやすくなるからかと思いますが、そういった点も含めて、全体での構造上の弱点が目立ってしまいました。
 でもパーツは最高でした! 特にコードネームの一覧は、大いにワクワクさせてくれるもので、こうした性質の作品にとって最高の仕掛けでした。

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