第19回『このミス』大賞1次通過作品 静かに眠るドリュアデスの森で

目撃者は樹木?
少女が植物から引き出した記憶、
そこに眠る真実とは……

『静かに眠るドリュアデスの森で』冴内城人

 応募原稿を読んでいて時々出会うのが、登場人物が特殊な能力を持つ物語だ。だが、作中でのルール(その力でできること・できないこと)に、うまくバランスをもたせた作品は少ない。これはその数少ない作品だ。
 大学で植物学を学びながらも、研究者の道を諦めた草壁大樹は、卒業後、寂れた田舎町にある実家の生花店で働いていた。
 父の怪我をきっかけに雇ったアルバイトの高校生・柊青葉は、ときどき奇妙な行動をとることがあった。怪訝に思っていた大樹は、やがて彼女の秘密を知ることになる。青葉は植物の声を聞くことができるというのだ。植物の感情や知性は、大樹自身がかつて興味を抱いていたテーマだった。
 半信半疑の大樹だったが、青葉が聞いた樹木の「証言」のおかげである事故の真相を突き止めて、彼女の能力が本物であることを確信する。やがて青葉たちは、この町の歴史に関わる探索に取り組むことになる……。
 挫折の末に帰郷した若者が見る田舎町の風景。中盤に至るまでの展開はゆっくりしている。ミステリーとしての立ち上がりは遅いけれど、それが決して弱点にはなっていない。むしろ、このゆったりした雰囲気こそが作品の魅力だと言ってもいい。日本のどこにでもありそうな田舎町と、そこに暮らす人々の姿。キャラクターの描写という幹がしっかりしているので、大樹や青葉の、そして周囲の人々の日常をのんびりと読んでいるだけでも楽しめる。
 とはいえ、前半には何もないわけではなく、いくつかの小さな事件が起き、そこに巧みに伏線が仕掛けられる。最後のページに仕掛けられたちょっとした驚きにも、さり気ない技巧が光る。
 激烈な事件も緊迫した事態もないけれど、謎を解き明かす過程を心地よく読ませる作品だ。

(古山裕樹)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み