第19回『このミス』大賞 次回作に期待 宇田川拓也

『脳内ソウルズあなたを殺す』橋本秋葉
 
 応募者のみなさま、お疲れさまでした。
 まずは、今回もたくさんの力作を拝読させていただいたなかで気がついたことを。
 勢いで書いてしまったのか、推敲不足が原因なのか、誰が読んでも「おかしい」と思うであろうことがそのまま放置され、蓄積し、結果として全体が台無しになっている作品がいくつもあった。たとえば、同僚に恋人を殺されたあともそのまま同じ仕事を続けている会社員、元カノの訃報を聞いただけで簡単に日常を放り出して調査のために何日も全国を飛び回る社会人、危険な目に遭ったばかりなのに素性のわからない人間からの呼び出しにあっさり応じてしまう女性など、いかがなものか。読み手に「そんなひとはいないだろう」と思わせない目配りをもっと意識していただきたい。
 謎解きのあとで、「さすが名探偵!」「お前の見事な推理には脱帽だ」といった具合に、探偵役を褒めそやすシーンが出て来る作品に限って大した推理でも謎解きでもなく、読んでいるこちらが気恥ずかしさを覚えてしまい、困ってしまった。こうしたシーンをどうしても入れたいなら、よほどのレベルでないと失笑を買うだけなので取り扱いにはご注意を。
 ダジャレ厳禁。書いている方は愉しいのかもしれないが、正直うんざりだ。

 次回作に期待は、一作品。
『脳内ソウルズあなたを殺す』橋本秋葉は、なんとも奇妙な味わいを持った作品だ。
 主人公の〈私〉が学校から帰ろうとすると、冷蔵庫をTシャツのようにすっぽりとかぶった「冷蔵庫男」、赤いチューリップの花弁で身体を蔽った「チューリップ女」、そしてスキップする露出狂の変態(六十代くらいの白髪の全裸男)に遭遇。しかし、そもそも奇人変人を引き寄せる体質なので、「ああ、またか」と思うだけ。その後、再会した冷蔵庫男から災厄の気配“黒いニオイ”が出ていることを察知した〈私〉は、実際に妹の誘拐という大きな災難に見舞われてしまう。これは、さらなる災厄の前兆に違いない。〈私〉は冷蔵庫男を殺そうと決意するが、そこに露出狂の変態が現れ……。
 この簡単な内容紹介だけでも奇妙奇天烈な味わいの一端を感じ取っていただけると思う。万人受けは難しいテイストだが、筆者は大いに歓迎した。加えて本作には、今回拝読した応募作のなかでも一番といえる強みがある。それは文章センスだ。全体をオフビートな魅力で貫く地の文もさることながら、寂れた商店街で交わされる生意気な小学生サクラとの会話等じつに素晴らしく、もっともっと登場人物たちの取り留めのない日常を眺めていたいと思ってしまった。惜しむらくは、やはりどう贔屓目に見てもミステリーとしての読みどころが決定的に足りない点だ。もしも本作に、たとえば物語にふさわしい異形極まりないロジックや強烈なサプライズが用意されていたなら、力強く背中を押せたのにと悔やまずにはいられない。真相もいささか観念的に過ぎ、広く読者の膝を打たせるには弱いと感じた。
 とはいえ、プロの作家でもなかなか身につけられないものをすでに持っている方だ。ぜひその才能をいま一度ミステリーに注いでいただき、どうか再度の挑戦を心よりお願いしたい。

 最後は毎度毎度の、いつもの言葉で。
「書店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」

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