第19回『このミス』大賞1次通過作品 セブンアイランド

全てを記憶する男が小笠原諸島へ
出会ったのは「皆に忘れられる女性」
この島で一体何が起こっているのか?

『セブンアイランド』松本央輔

 主人公の小笠原洋一郎は、東京都の職員。彼は見たものを全て覚えてしまう「完全記憶」という特殊な体質の持ち主で、周囲の人間とも打ち解けられずにいた。
 彼は小笠原支庁への異動を命じられ、船に乗って父島へと赴く。港で彼を迎えたのは、大島夏南という少女。彼女の働く居酒屋へ連れていかれ、そこで待っていたのは支庁の同僚となる三宅詩穂子だった。激しく酔っ払った詩穂子は、周囲の皆が翌日になると最近の彼女のことを忘れてしまっている、と悩みを打ち明けた。だが小笠原は完全記憶のおかげか、忘れることはなかった。
 やがて洋一郎は、この島は不思議な能力を人に与えることがある、という事実を知る。詩穂子の場合は、ペンのようなものをテーブル上で回転させると、いつまでも止まらないというものだった。夏南もまた、特殊能力の持ち主だった。
 人々から詩穂子に関する記憶が一日ごとにリセットされてしまうのも、誰かが(意識してか無意識にか)能力を発揮している可能性が高かった。
 洋一郎は詩穂子や夏南とともに過ごすうちに、この島で何が起こっているのか、真相に近づいていくのだった――。
 なんだか妙な話だな……と思いつつ読んでいったところ、途中からどんどん引き込まれていった。クライマックスでは、本当にどきどきハラハラさせられた。
 単に異能力ものというだけでなく、謎が提示され、それを解き明かす過程も描かれているので、『このミステリーがすごい!』大賞に応募するのにふさわしくない、ということもない。登場するキャラクターもなかなか魅力的だ。主人公・小笠原洋一郎と詩穂子とのやりとりも楽しい。文章全体のテンポもいい。
 ただ、もしかしたら最初の部分を削って、主人公が船に乗る(もしくはいっそ父島に到着する)ところから話を始めた方が、読者を引き込めるかもしれない。
 とはいえ、小説としての魅力は充分。一次選考のハードルはしっかりクリアだ。

(北原尚彦)

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