第19回『このミス』大賞1次通過作品 STRANGER’S RACKET

ブックメーカーとして働く元テニスプレーヤーは
新開発のラケットの使用レポートを依頼されたことから
きな臭い事件に巻き込まれていく

『STRANGER’S RACKET』橘伊織

 主人公の北村修一郎は二十代後半で、ロンドンにあるオッズメーカーで働いている。元はテニスプレーヤーだがケガで競技から離れたという過去がある。他にもいろんな事件の経験があって、謎解きの主役としての資格は十分にあるという設定。オッズメーカーという職種と関係なく、北村は社長から頼まれて世界的スポーツ用品メーカーの会長アレンに、新開発のテニスラケットの使用レポートを依頼される。故障を抱えたプレーヤーの弱い所を自動的に保護強化するという、画期的な製品だという。
 そこへかつてのパートナーで、現在もプロとして活躍しているキースが現れる。北村はキースのことをサーブでケガさせたトラウマもあって、オーバーヘッドのショットが打てなくなっている。このあたり、海外生活やテニスの描写も適度で、落ち着いた書き方である。ただキースが世界ナンバーワンのオブライエンを倒すと言ったりとおかしな様子を見せ始め、話はどんどん大きく広がっていく。
 アレンの会社の幹部が湖に沈められているのが見つかって、キースが関係していることがわかりFBIが出てくる。北村のところにはスペインの元世界的プレーヤーで、今は盲目の鍼灸師というサンチェスが接触してくる。
 殺された幹部の死体からは、日本のお守り袋の繊維が出てきて犯人のものかも知れないということになる。それだけでなく口に鉱物の痕跡があって、石が押し込められていたならオメルタという南米の麻薬組織と関係があったことになる。
 サンチェスと見に行ったロンドンのトーナメントで試合中にキースは射殺される。犯人の背中に北村はオーバーヘッドでボールを打ち込んで倒す。このあたりでまだ半分も物語は進んでいない。アレンに頼まれて日本の神社を調査したり、オブライエンが誘拐されそうになったり、誰がどんな目論見で動いているのかが見えなくなってくる。
 それでも書きっぷりが落ち着いているから、無理筋にもそれほどの違和感は感じない。今どきの若い感覚ではなくて、昔ながらの小説作りを目指したようで、それがかえって新鮮に感じられたということかも知れません。

(土屋文平)

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