第19回『このミス』大賞1次通過作品 赦しのサクラメント

雲上のヘリコプター内で社長が殺害された
容疑者は密室の機内に同乗していた三人の社員
彼らの会社は副業制度が推進されており……

『赦しのサクラメント』阿部考二

 ヘリと管制塔の交信から話が始まる。搭乗員一名が意識不明、呼吸停止という非常事態。ただこれがヘリだとは後でわかるし、搭乗員が乗客四人のうちのひとりだとも書いてない。基本的な情報が知らされないのはミステリとしては困る。この問題は最後まで続く。
 設定の良さに構成がついていっておらず残念だが、その思い付きには興味を引かれた。一次選考を通過する力があることは感じた。
 ヘリの中でネクタイにて絞殺されたのは、カタログギフトの一部上場企業のワンマン社長で、他の三人は東条副社長、芦田専務、松方常務という顔ぶれである。社長の指示で、アイマスクとヘッドホンをいつも通り装着していたため、長野から東京への機中ではなにもわからず、着陸して初めて社長の死を知ったと口をそろえて言う。
 と、これがミステリらしいところで、本筋はこのレッツ株式会社が、副業推進部があるほど副業が奨励されていることにある。「赦しのサクラメント」なる副業会社まであって、テレビで取り上げられて世間の話題となる。これがこの小説の主題であって、人はなぜ罪を告白するかという不思議なテーマにつながっていく。
 まあ、奇想といっていいのではないかと感心しました。
 殺された社長も、それぞれ社長を殺したい動機を持っている三人の重役にもリアリティはないものの、ではゲーム的な推理遊びの話かと思うと、この赦しという要素が重しになっていて、あまり読んだことのない小説を読んだ気持ちになります。
 意外な犯人なども用意されているのに、残るのは妙な話を読ませてくれたなあ、という感覚で、これはやはり他の人にも味わってもらいたいと思う。

(土屋文平)

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