第19回『このミス』大賞 次回作に期待 川出正樹

『嘘がばれたら殺される!』岡龍二
『少尉のインターン』アーロン・ズー
『とある行商人の冒険』鹿輪健司
『色彩の瑠璃花』廣野真珠巳
 
 日本語としてきちんと意味が通り、ストレス無く読めるにもかかわらず一次選考を通過できない作品に共通する要因はいくつかありますが、一番大きなものは”オリジナリティの欠如”です。
 最近はやっている作品と似たものを送ってきても、『このミス』大賞の一次は通過できません。率直に言って、次に何がヒットするかは誰にも分かりませんが、既存の作品を彷彿とさせる応募作が新人賞の受賞作に選ばれる可能性は限りなく低いのです。
 また傾向と対策に捕らわれることも不要です。過去にどんな作品が受賞したかを調べ、選考委員の好みを選評等から憶測する。こうした労力には、ほとんど意味はありません。応募要項に書かれている条件を満たし、オリジナリティがあること。大切なのは、この二点です。
 本賞に関して言えば、「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」と記されているのは伊達ではありません。“エンターテインメント”のキモは、いかに人を楽しませるかです。そのためには、魅力的な〈物語〉が必須。テーマや主義主張、突飛な謎や仕掛け、これらは〈物語〉があって初めて活きるのです。また、“広義のミステリー”に当てはまらない作品、即ち、中心となる魅力的な謎や、ストーリーを牽引するサスペンスがまったくない作品は言うまでもなく、ちょっと付け足してミステリの体裁を整えましたという程度のお仕事小説・恋愛小説・時代小説を送ってくるのは無駄というものです。他のノン・ジャンルの賞に応募することをお薦めします。
 そして最も大切なのは推敲です。推敲は、し過ぎると言うことはありません。無駄な会話や描写が必ず見つかるはずです。調べたネタや思いついたエピソードをすべて盛り込んだ締まりのない原稿では一次は突破できません。未完成な原稿を送るくらいなら、もう一年間推敲するくらいの覚悟で臨んで下さい。

 さて、次に、一次通過には至りませんでしたが光るところがあった作品についてコメントします。

 岡龍二『嘘がばれたら殺される!』は、シチリア島を舞台にマフィアお抱えの敏腕弁護士と組織内の裏切り者、そしてマフィア捜査官が虚々実々の策謀劇を繰りひろげる様を描いた犯罪小説です。異国を舞台に日本人が一人も出てこない物語を構築する心意気を高く評価します。ただこのタイプのクライム・フィクションで、なによりも重要なのは登場人物の造型ですが、類型の域を出ていない為に物語が薄く、長い梗概を読んでいるように感じてしまいました。オリジナリティのある物語を構築する意欲のある方だと感じましたので捲土重来を期待します。

 アーロン・ズー『少尉のインターン』は、元アメリカ海軍の予備役将校訓練過程にあった日系アメリカ人の若者が、日本の通信キャリアに就職し、国益絡みの殺人事件の謎を解く謀略ミステリです。主人公の設定は面白く、文章も水準レベルには達していますが、陰謀劇の主体が実在する企業に似すぎている上に、肝心の謀略が新味に乏しく、予定調和的に終息する点は大きなマイナスです。現実と虚構のバランスに配慮した次回作を期待します。

 鹿輪健司『とある行商人の冒険』は、架空の国のバーを訪れた美貌の行商人が旅の先々で見聞きしてきた不思議な話を語り、その謎に常連客の若者二人とバーのマスターが挑む連作ミステリです。飲食店を舞台にした安楽椅子探偵という謎解きのスタイル、単独に思えた謎が実は緩く連関していて最後で出題者の意図が明かされる連作形式。いずれも定番中の定番で手堅くまとめてはいますが、新鮮味は感じられませんでした。架空の国という設定をもっと入念に作り込めば独自性を出すことができたと思います。作中作となる四つの物語がすべて日本文学――坂口安吾、夏目漱石等の有名作品――に偏り、寄りかかっている点も不自然かつ安易です。すべて一から考えるか、いっそのこと「グリム童話」の隠された謎という感じで、完全に原型のままとして、その中に謎を見出すか、どちらかにした方が良いです。

 廣野真珠巳『色彩の瑠璃花』は、全色盲だが幽霊だけは色がついて見える霊能力者の少女と、明晰夢の中で推理する若手刑事が、都市伝説の怪人が起こしたと思しき連続殺人事件の謎に挑むミステリです。動画配信という新たなツールが一般化した社会での都市伝説構築と殺人事件を搦めてミッシングリンクを探っていく手法は、オリジナリティを感じさせてくれます。反面、視点のぶれが散見される点、会話で繋いでストーリーを進める為、小説というよりはテレビドラマの脚本を読んでいるような気にさせられてしまう点はマイナス。探偵役の造型とストーリーの骨格は面白いのに、肉付けが不足しているためどうしても物語が痩せて見えてしまいます。独創的な物語を作りたいという意欲のある方だと感じましたので、捲土重来を期待します。
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