第19回『このミス』大賞1次通過作品 悪魔の取り分

舞台は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と共存せざるをえない日本
抗インフルエンザ新薬を巡る策謀に、若手官僚とベテラン刑事が立ちむかう

『悪魔の取り分』柊悠羅

 インフルエンザ脳症による死亡案件が立て続けに三件発生した。基本的に発症するのは五歳以下の幼児か高齢者であり、働き盛りの成人が罹ることは稀、しかも全員が東京賢明大学医学部付属病院で診断を受け、抗インフルエンザ新薬『オムナザ』を処方されていたのだ。同薬の危険性を調査するよう指示を受けて医療事故を調べていた厚生労働省医薬食品局の若手職員・佐倉健人は、偶然で片づけるにはあまりにも不自然なこの事案を探るために、謹慎処分中の警察庁捜査一課警部補・茅野孝司と行動を共にすることになる。死亡した三人――元文部科学大臣、同病院医師、『オムナザ』を開発した製薬会社の社員にして佐倉の大学時代の同期生・橋本――の繋がりを追う二人は、やがて医薬業界の暗部へと踏み入ることに……。
 舞台は二〇二二年一月の日本。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、ありようが変わってしまった社会をしっかりと見据え、AIによる創薬、医薬品を巡る利権争い、公安警察と刑事警察の確執、さらには官僚と医療従事者の懊悩と矜恃を描いた柄の大きなミステリです。多数の登場人物を書き分け、血肉の通った人物として活躍させ、物語を推進していく力強さに大いに感心しました。成人のインフルエンザ脳症発症を巡る謎解きという根幹を揺るがさず、大きく広げた風呂敷をきちんと折りたたんでいく手際も見事です。専門知識に触れる場面で、若干説明調になる瑕疵はありますが、自信をもって一次通過作として推せる作品です。

(川出正樹)

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