第19回『このミス』大賞1次通過作品 わかなみゆらむ

美術界の暗闘と龍安寺石庭の謎を描く
謀略譚に歴史ミステリを組み込んだ意欲作

『わかなみゆらむ』響木琢

 画廊経営者の藤堂が転落死を遂げ、油彩画家の長谷川晴高は週刊誌記者の娘・若菜に「あれは自殺ではない」と言い残して姿を消した。ほどなく晴高の溺死体が発見され、父が残したメモの痕跡(八つのキーワード)に気付いた若菜は、先輩記者の芳賀と吉岡を巻き込んで調査を始める。三人は「ハリ」と呼ばれる組織が画廊を使って資金洗浄をしていること、現代アート作家とハリの繋がりなどを突き止めるが、吉岡は自殺を装って殺害され、芳賀は不審な交通事故で入院してしまう。
 若菜は箱根の別荘に身を隠すものの、何者かに車のブレーキオイルを抜かれ、危ういところを怪しげな女に救われる。女は”依頼者”に雇われた”警護者”と名乗り、二ヶ月以内に龍安寺石庭の作者を公表せよ、そうすればハリの情報を提供する──と契約を持ち掛けるのだった。
 美術界に巣喰う”闇の組織”を案出し、水面下の抗争を描くスリラーである。オーソドックスな謀略譚のスタイルを活かしつつ、歴史の謎解きを織り込み、時代小説パートを挟む演出はエンターテインメント精神の産物だろう。作者捜しに物足りなさはあるが、過去のエピソードを現代の出来事に結び付け、明瞭なテーマに落とし込む構成は高く評価したい。読後感の良いラストシーンも含めて、娯楽小説のセンスを感じさせる一作だ。

(福井健太)

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