第15回『このミス』大賞1次通過作品 魔術師

瀬戸内海の孤島に建つ大実業家の私邸「神綺楼」。
集められた孤児たちを襲う連続殺人事件の真相とは?

『魔術師』新月座

 大学生――光田聖のもとに届いた、“実業界の巨星”青茅伊久雄からの招待状。伊久雄を自身の祖父だと考える聖は、瀬戸内海の盃島に建つ私邸「神綺楼」に赴く。そこで出会った、四代元素――火、水、風、地の名を与えられた四人の孤児たち。そのひとり、火美子に心惹かれてゆく聖だったが、残り三人の孤児が何者かの手でつぎつぎと殺されてしまう。つぎに狙われるのは火美子なのか。聖は独自の調査により、ある狙いに気がつく……。
 今回読んだ応募作のなかで、もっとも本格ミステリーに真摯に向き合い、熱いスピリットを感じさせ、大変好感を覚えた。富豪が建てた異様な豪邸。四代元素の名を持つ少年少女。古今東西の奇品を蒐集した“驚異の部屋”。自動人形。リュートの調べ……etc。適度な衒学趣味とともに綴られる雰囲気たっぷりな物語に、わくわくしながらたちまち引き込まれてしまった。正直こうしたタイプの作品は本賞向きではないが、それでも投じてくださったことに、いち本格ファンとして心から敬意を表したい。
 ただ、すべてを手放しで絶賛できるわけではない。一番の問題は、本作が綺麗な着地を迎えるためにひとつならず必要な「それを成すだけのために、そこまでやるか!?」という理由が、膝を強く打つほどには説得力がないことだ。また、この遠大な計画を平成二十四年に実行することにも、いささか強引な印象を覚えてしまった。
 少々甘いのでは――といわれてしまうかもしれないが、好感を覚えるほど愉しんだことに違いはない。おずおずと二次に上げる次第である。

(宇田川拓也)

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