第15回『このミス』大賞1次通過作品 紋白蝶は高貴に散る
過去――幽体離脱の実験で命を落とした友。
現在――殺人事件の捜査で出会った少女。
二人の奇妙な相似は何を物語るのか?
『紋白蝶は高貴に散る』近藤健四郎
外面だけを取り出せば、オーソドックスな警察小説のようにも見える。だが、これは間違っても事件が捜査され、解決へと導かれるだけの物語ではない。
幼いころに、父と母が引き起こした惨劇。それを機に、春日聖夏は刑事を目指すようになった。念願かなって、今では警視庁捜査一課の刑事だ。
学生時代の旧友・大沢貴文と久しぶりに会った聖夏は、彼が今なお七年前の事件の真相を追い求めていたことを知る。当時、大学の超常現象サークルに属していた聖夏たちは、幽体離脱の実験を行った。だが、その最中に被験者・本城翼が心肺停止で命を落としたのだ。あれは事故ではない――大沢貴文は証拠が残っていない今も、翼の死が殺人であることを立証しようとしていた。
刑事としての聖夏は、新たな事件を追っていた。二か所で見つかった、橋の欄干から吊るされていた絞殺死体。捜査の過程に浮上したのは、十四歳の少女だった……。
この作品には何か過剰なものが宿っている。そのことは、読んでいるうちに実感できる。捜査の過程で出会った少女たちに対する、聖夏の過剰な思い入れ。事件捜査の合間に語られる、七年前のできごと。彼女自身とは全く関係のない事情で起きた殺人事件は、捜査の過程で、まぎれもない春日聖夏自身の事件と化していく。
スタンダードな警察小説、ないしは謎解きの物語を求める読者を、大いに戸惑わせる作品だ。読者を眩惑させる物語。その土台となっているのが、独特の雰囲気を作り上げている語り口だ。端正でありながら、時にいびつさをあらわにする。忘れられない印象を残す小説だ。
正直なところ、警察の描写には怪しげなところも見られるのだが、そういうことには目をつぶってでも推したくなる作品である。
(古山裕樹)














