第15回『このミス』大賞1次通過作品 眠りの海の子供たち
1995年、沖縄――米兵による少女暴行事件。
その陰で起きたもうひとつの事件とは?
秘すべき過去に囚われた者たちのドラマ。
『眠りの海の子供たち』澤江晋平
奇を衒ったところは何もない。非常にオーソドックスなミステリーである。
主な舞台は沖縄。起点となるのは、一九九五年に起きた、米兵による少女への暴行事件だ。実行犯の身柄が日本側に引き渡されず、沖縄の反基地・反米感情が爆発し、日米地位協定の見直しや、米軍基地の縮小を求める運動へと発展したあの事件……の裏側で起きたという、もうひとつの少女暴行事件だ。
週刊誌の記者・小田のもとに、ある政治家の過去にまつわる情報提供の連絡があった。1995年の事件の陰で、もう1件の少女暴行事件が起きていた。しかも加害者の海兵隊員は、高校生に報復されて殺されたというのだ。
その高校生が、現在の沖縄県選出の代議士・新垣ダンテ。米軍人だったアフリカ系アメリカ人の父と、日本人の母の間に生まれた、190㎝を超える巨漢。米兵と現地女性との間に生まれた子を指す「アメラジアン」という言葉とともに知られる、気鋭の若手政治家。もしも、これが事実だとすれば大スクープだ。小田は情報提供者に会うため、沖縄へと向かった……。
この作品は、秘められた過去を描く物語であると同時に、その過去に囚われた人々の現在を描く物語でもある。過去と現在にまたがるドラマを構築するため、スクープを狙う記者の取材の物語と並行して、もうひとつのストーリーが語られる。西表島に暮らす水中カメラマンと、その妻の物語が。
ミステリーとして、先鋭的な何かを備えているわけではない。だが、ディテールも含めて、非常に手堅く構築された小説だ。西表島の自然を、沖縄の街を描きつつ、その背後に隠された男たちの過去を浮かび上がらせる。登場人物たちのサイドストーリーまできっちりと描いて、時にはメインストーリーと巧みに絡み合う。派手さには欠けるものの、丁寧に組み立てられた、じっくり読ませる作品である。
(古山裕樹)














