第15回『このミス』大賞1次通過作品 萬朝報怪異譚――幸徳秋水の狐落とし
キャラよしストーリーよし――
旧藩主の発狂誘拐の裏に潜む陰謀を幸徳秋水と見習記者が追う!
『萬朝報怪異譚――幸徳秋水の狐落とし』松野未加子
舞台は明治。黒岩涙香が創刊した『萬朝報』で記者を務める青年・幸徳秋水は、だいぶ年上の見習記者の御代田遼次とともに、相馬家で起きた騒動を追って奔走する。旧相馬中村藩主相馬誠胤の発狂、あるいは誘拐などの出来事を追ううちに、秋水と遼次は、その裏にある企みがあるのではないかと疑い始める……。
冴え渡る知恵を持つ幸徳秋水のドSキャラ、それに振り回される遼次(主要な視点人物だ)のぼやきキャラ。まずは主要人物である二人の造形や描写が素晴らしい。二人ともその人物なりに自然に動き、喋っていて、その掛け合いが醸し出すユーモアをたっぷりと愉しめるし、作り物めいたぎこちなさに興醒めすることも全くない。
二人が取材を通じて真実に迫っていく様もまたよくできている。秋水が真相を得るための策略の妙を愉しみ、さらに、予想外の出来事が彼等を待ち受けている衝撃も愉しめる。
つまりはキャラクターとストーリーがしっかりしているわけで、それ故にスムーズに物語に没入することが出来るのである。
作者はその物語に、さらに胸を打つ要素も盛り込んでいる。そのエピソードそのものは上出来であり作品に深みをもたらしているのだが、強いて苦言を呈するとすれば、そのエピソードの盛り込み方にもう一工夫あってもよかったように思う。伏線の張り方次第では、もっとスムーズに読めたのではないかと思うのだ。
とはいえ、全体としては十二分に満足。安心して二次選考に送り出せる一作だ。
(村上貴史)














