第15回『このミス』大賞 次回作に期待 福井健太

『〈鎌倉殿〉連続殺害』椿谷霙
『永久処女の秘密』田中静人

 

 大賞と優秀賞に隠し玉を加えて、本賞からは昨年度(第14回)までに58冊が上梓された。刊行点数がバリエーションに繋がったことで、投稿作の傾向も年を重ねるごとに広がりつつある。狭義のミステリーのみならず、ファンタジーやSF、あるいは分類不能な怪作も珍しくない。しかし「広義のミステリー」が対象である以上、その成分を含まないものが(例外はあるにせよ)評価されにくいのも事実。かりに異世界や超能力を扱うとしても、多少のミステリー要素は欲しいのである。
 それともう一つ。各作品の選考委員は無作為に選ばれるので、希望を書いても効果がないことも断っておこう。不特定多数を相手にすべき小説が、一次選考の読み手を選ぶようでは話にならない。
 今年度の「次回作に期待」は2作に絞った。椿谷霙『〈鎌倉殿〉連続殺害』は文献をもとに謎を解く歴史ミステリーだ。全治5週間の怪我を負った出版社社長・篠原文吾は、入院中の暇を潰すべく、鎌倉幕府の棟梁”鎌倉殿”が次々に変死した理由を解き明かす。ジョセフィン・テイ『時の娘』や高木彬光『成吉思汗の秘密』に倣ったベッド・ディテクティヴもので、全体的な安定感はあるが、推理のダイナミズムと題材の弱さ──つまりはエンタテインメントとしての地味さが惜しまれる。形をなぞるだけではなく、テイの風刺性や彬光のロマンティシズムに相当するものが欲しい。
 田中静人『永久処女の秘密』には奇病が登場する。「女性だけがかかる病気で、性交後しばらくすると、相手男性に関する記憶のすべてを失ってしまう」性交時記憶喪失症候群──通称”永久処女”の存在を前提として、一組の男女とその周囲を描くラブストーリーだ。基本設定をひとまず許容すれば、派生的に生じるユニークな状況を楽しめるが、奇想に比して物語が小さい感は否めない。ヒロインの思考が説得力に乏しく、プロットが恣意的に映るのも残念。しかし着想力は覗えるだけに、腕を磨けば化ける可能性もありそうだ。
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