第21回『このミス』大賞 1次通過作品 プロメテウス・ゲーム
最新VRゲーム体験会は、芸術殺人創造集団の罠だった!?
参加者に非情なゲームを課す仮想世界で起こる殺人事件
大胆不敵な仕掛けを秘めた、VR×サバイバル×本格推理
『プロメテウス・ゲーム』金童子集
VR技術が進化し、仮想空間SNSが世界的に利用されている、二〇三〇年。
なにを目指しても必ず残念な結果を迎えてしまう人生に悲観している大学生の黒原皐月(くろばら・さつき)は、最先端VRゲームの体験会に当選。計十二人のメンバーで仮想世界に入る。だがそれは、伝説的なミステリ作家・不来方司(こずかた・つかさ)率いる芸術殺人創造集団〈プロメテウス〉による罠だった。過度な規制により殺人描写が禁じられ、魅力的な事件や謎が描けなくなった不来方は、自身のアイデアを現実の犯罪として具現化し、“作品”としてつぎつぎと打ち出すことを開始。皐月たちはそのために集められた素材のひとつだったのだ。仮想世界で繰り広げられる生き残りを賭けたデスゲーム。そこで起こる不可解な殺人事件。皐月を待ち受ける結末とは……?
特殊設定ミステリが活況を呈する近年、岡崎琢磨『Butterfly World 最後の六日間』、方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』といった力作の記憶も新しいVR本格ミステリに連なる長編だ。手際のよさは今回読んだ応募作のなかでも一番で、デスゲームのクリアを目指しつつ、メンバー間で起こる複数の殺人事件の解明にも取り組む内容は、新人が描くには難度高めだが、大きな混乱はない。作中ではショッピングアプリでポイントを使い、凶器やアイテム、情報、さらには「停電」「灼熱」といったシチュエーションが購入でき、そうした設定の活かし方や見せ場作りも悪くない。
また、単なる酷薄な推理ゲームに終わらず、自己肯定感の低かった皐月が自分を信じて強い決意を抱くまでの成長物語にもなっている点に好感。危うさ漂う世相、ひとの善意や信頼についての問いを織り込み、終盤で明らかにされるいささか力業に過ぎる大胆不敵な仕掛けを補強しているのも(効果のほどはともかくとして)、他の応募者より目が行き届いていると感じた。いかにも若書きな作品だが、ためらいなく二次に推す。
(宇田川拓也)