第21回『このミス』大賞 1次通過作品 天の鏡
自分と無関係なトラブルに首を突っ込んでは謝るという奇妙な行為をする男
彼には次々と変な知り合いができてしまい、話は意外な方向へと……
『天の鏡』中村駿季
新宿歌舞伎町の路上で客が店員を怒っていると、知らない男が謝りながら近づいていく。自分とは関係ないトラブルに首を突っ込んできては謝るという奇妙な行動をする佐山保という男が現れる。メーカーの営業である佐山は一緒にいた上司に呆れられるが、そこにライラという女性が声をかけてきて、あなたにぴったりな仕事がある、会社をやめて自分の仕事を手伝えという。
彼女はSMクラブの女王をしていた過去があり、大掛かりなセットを作り、役者を使って顧客の抱えるフラストレーションの解消やファンタジー願望を叶える仕事をしていた。翌日部屋へ行くと頬を5分以上引っ叩かれてそのままお芝居の仕事をさせられる。
ある日、歌舞伎町へ行くと、もぐりの客引きがヤクザに捕まっていて、佐山は謝らせてくれと進み出て殴られるも、彼らと知り合いになる。すると今度は美人の会社員が血を出している佐山にハンカチをくれる。エアコンの会社で謝罪係をしているという森岡沙耶だというので、次の機会には謝罪現場に連れて行ってくれと頼む。
沙耶の会社はミスが多く謝罪の仕事に同行した佐山は、相手の気持ちを優先させて謝罪するプロの仕事に感心する。自分はただ謝るだけだったからだ。
一方、例の客引きの仲間から電話があり、ヤクザのマンションへ一緒に行ってくれと頼まれる。名刺を渡してあったのだ。ヤクザからは今どれだけシノギが苦しいのか説明を受けることに。次に組長のところへ行くときには引導を渡されないように佐山を連れて行くと言われる。組長のところへ連れて行かれた佐山は、今度は別な組との交渉の場に連れていかれる。そこで、佐山は双方の言い分をすべて聞いた上である提案をすることに……。
ライラの会社へは次々に悩みを相談しにくる客がいて、そのつどライラは適格な芝居を考案し佐山も出演しては驚きの結果を目の当たりにする。最後には佐山の悩みも芝居となり、佐山が抱えていたトラウマを再現することと……。
SM、ヤクザ……どぎつい世界のことを落ち着いた語り口で楽しく読めるように工夫してあるところとユニークな設定に感心しました。
(土屋文平)