第21回『このミス』大賞 1次通過作品 飛行機と結婚した女、重婚す
飛行機への異常愛のため変人扱いされている愛子
彼女は周りを巻き込んで、祖父が亡くなった墜落事故の原因を探り出す
『飛行機と結婚した女、重婚す』渡辺光太郎
いやはやここまで自己中な主人公は見たことがない。三菱重工業航空機部門の生産技術者、28歳の一ッ木愛子。冒頭でいきなり会議に呼び出される。愛子が整備したボーイング777の担当部分に大穴が開いて緊急着陸したという。電話してきたのは同期の設計部門にいる女性で、愛子をなぜか目の仇にしている。
事故機の写真をネットで先輩たちに集めさせて、様々な角度から検証するとタービン・ブレードが破損して胴体と水平尾翼を貫通した事故とわかる。三菱重工のせいじゃない、会議終了。と一方的に先輩たちに宣言して愛子は会議室を出てしまう。職場の席に戻ると机の上は飛行機の部品とプラモデルでいっぱいである。
そこへ海外のネット・オークッションでウクライナから出たタービン・ディスクを見つけて、絶対に競り勝とうとする。10ドルで始まって1500ドルまで上がったがなんとか競り勝ち、約2週間後に部品が届く。このタービン・ディスクの材質が『航空機材料』にも載っていない。
と、ここまでが導入部で、それなら会社の材料試験室で調べてもらおうと後輩の飯島に頼むと、仕事以外はしたくないと断られる。まだ2、3回しか頼んでないじゃないかと愛子が言うと、これまで34回だと反論されてしまう。ともかく自分の航空機趣味のために常識外れのことばかり社内で繰り返して、それがみんなの勉強になっていると思い込んでいるから、後輩の反論は愛子には通じない。最初は会社一の美人の頼みだから聞いていると、歯止めが効かなくなってしまうのだ。
この部品の欠陥が原因で、かつてウクライナで事故が起きて、航空工学の大学教授であった祖父が亡くなったとわかると、もう愛子は止まらない。他社の人間も無理やり巻き込んで、嫌がる飯島とモスクワまで出かけて行ってしまう。そして事故の謎を解くが、意外な結末を知る事となる。
スーパー飛行機マニアの愛子の人物造形だけで、十分楽しめました。
(土屋文平)