第21回『このミス』大賞 1次通過作品 蝶に罪はあったのか
エンドマークで浮かび上がるヒロインの面影が美しい
『蝶に罪はあったのか』幽塔瑠々
ミリーが実に魅力的である。
会話と行動を描くだけでよくぞここまで造形した。それが本作第一の美点だ。
地方都市の高校を舞台とした学園ミステリー、ということになるのだろうか。ミリーの本名はマチルドという。フランスからやってきた留学生で豊鷲見高校の新聞部に入った。壁新聞のコラムを書くために彼女は取材中で、一学年上の小花衣子雛(私)と鳥鷹人立の二人がその手伝いをしているというのが基本設定である。日本のさまざまなことを見聞きしてミリーが子雛・鳥鷹の二人と交わすやりとりが、小説の肉に当たる部分といっていい。フランス語のouiも「うい」と書かれると非常に可愛らしい。骨に当たる部分にいくつかの謎が設定されている。一つは蛭川先輩から三人が提示される問題だ。蛭川先輩はある冊子を「超有名作家の秘蔵作」と呼び、その作者を当てることができたら新聞部の求めに応じて原稿を書くと告げた。解くべき問題の中にテキスト読解が含まれるタイプの謎である。これ以外に、自殺者が目撃される事件などもいくつか出てくる。
最大の謎は、実は序章ですでに示されている。実はミリーは数日後に自殺してしまうのである。第一章以降にその兆候はまったく感じられないのだが、事実は動かない。なぜ彼女は死んでしまうのだろうか、というのが最後に解くべき問題だ。じっくりと物語につきあってミリーの人物像が見えてきているだけに、最後で向き合わなければならないこの謎は重い。人間を理解することの難しさを読者は味わうだろう。やるせない読後感が残る。
キャラクターの魅力もあって非常に好印象を持ったのだが、一つだけ問題がある。某有名作家の先行する青春ミステリーに酷似している点だ。作者は読んでいないのかもしれない。でもねえ、あれだけ有名な作家の有名な作品なんだからなあ。それ以外の文句はない。いい小説だと思う。
(杉江松恋)