第21回『このミス』大賞 1次通過作品 爆ぜる怪人

正義のヒーローが誘拐犯を殺して被害者少年を救出
奇妙な誘拐事件に登場したヒーローは自分が生み出したのか?
デザイン担当の青年が事件に足を踏み入れる

『爆ぜる怪人』おぎぬまX

 東京都町田市のご当地ヒーロー、マチダーマン。その運営企業であるマチダ・ヒーロー・ファクトリー(MHF)で働く青年、志村弾を主人公とした長篇である。
 デザイン部に配属され、キャラクターデザインを描くものの採用されず、一方でアクションショーの手伝いにたびたび駆り出されていた志村。そんな彼は、町田で起きた事件に衝撃を受けた。かつて自分が手掛けたデザインが事件に登場していたのだ……。
 とまあこうしたきっかけで主人公が事件に絡んでいくのだが、その接点がいくつもの意味でユニークだ。まず、町田で起きた事件そのものがユニークである。五歳の少年が誘拐され、その後、監禁先から脱出して警察に無事保護されるという事件なのだが、少年によれば、ヒーローが誘拐犯をやっつけてくれた、とのことなのだ。そして警察が換金先を調査したところ、確かに“やっつけられた誘拐犯”がいた。正義のヒーローによって絞殺されていたのだ。なんとも奇妙な誘拐事件だったのである。奇妙さにはまだまだ続きがあって、少年が描いた正義のヒーローの絵が、志村がかつてデザインしたヒーローに酷似していたのだ。志村にしてみれば、なんとも気味の悪い接点である。そしてその酷似という印象は、さらに強化されることになる。そのヒーローは、諸事情でお蔵入りしてしまったのだが、スーツそのものは完成していた。だが、会社の地下倉庫に保管されているはずのスーツを志村が確認しようとしたところ、いつのまにか消えていたのだ。まさか自分がデザインしたヒーローが正義の味方として殺人を?
 いささか説明が長くなったが、相当にユニークなかたちで事件が走り出し、そこに主人公が絡んでいくのである。そこから先も第二の殺人が身近なところで発生するなど事件は動き、同時に、個性の濃い登場人物たちもそれぞれの思惑で動き続け、読者を退屈させない。三〇年前の未解決の誘拐殺人事件なども絡んでくるからなおさらだ。
 事件の真相は、意外ではあるものの、犯罪としての実現性に少しばかり疑問は残る。とはいえ、前述のユニークさや展開のテンポのよさ、そして主人公の心境描写の上手さ(様々に揺れる心を自然に、巧みに描いているのだ)は高く評価したい。二次選考会で勝負するに値する一作である。

(村上貴史)

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