第21回『このミス』大賞 1次通過作品 ゴールデンアップル

合法復讐屋が暗躍する四篇
復讐の手口もその描き方もバリエーション豊か
作家としての資質を感じさせる連作短篇集

『ゴールデンアップル』三日市零

 四篇からなる連作短篇集である。
 エリスという人物を軸としているのだが、この人物がまずはキャッチーだ。職業は「合法復讐屋」を営む元弁護士。美女として登場するが、実は男性。法律知識を活かし、ときおり美女に化けながら、ミッションを遂行していくのである。「法律の範囲内だけど、道徳の範囲外」といった台詞回しも素敵だ。
 四篇で扱う“復讐”にもバリエーションがあってよい。元彼への復讐といったストレートなものもあれば、Twitterの暴露系アカウントによって女性インフルエンサーが過去を暴かれ、それに失望したファンが彼女を殺害し、被害者の母から暴露系アカウントへの復讐を依頼されるという、少々入り組んだものもあるのだ。依頼が変化するなかで、エリスのキャラクターに深みが増していく点もよくできている。
 当然ながら、復讐の手口そのものもきちんと作られている。エリス本人が推進する部分が主なのはもちろんなのだが、秘書のメープルや、昔なじみのケンなどとの連携もあり、この点でもワンパターンを回避している。そして読者の想像の一歩先を行くかたちで復讐を完結させていて、期待を裏切らない。
 四篇のそれぞれの個性は、視点人物の設定という点にも表れている。復讐依頼人の視点を中心にしたり、エリスの視点で描いたり、あるいは、誰が依頼人で誰が復讐のターゲットかわからないような一人称視点をエリスの視点と交互に配置したり、などなど。技術の確かさが感じられるのである。
 冒頭でキャッチーと述べたが、実は、エリスに負けず劣らず、助手のメープルもキャッチーだ。なんと彼女、小学生なのである。そんな彼女がこの仕事を行う枠組み、つまり小学生の労働を“合法化”するための枠組みもエリスによって(つまり著者によって)用意されていて、特異な設定にもきちんと現実に則った説明が行われているのである。こうした仕事っぷりは信頼に値する。最終話ではメープルの主体的な行動も描かれており、その決意を含め、彼女の活躍も堪能できる。
 上質の弁護士ものがいくつも刊行されている昨今だが、そのなかに入っても埋もれない存在感を備えた一作として、二次に推す。

(村上貴史)

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